藤田一照さんと対談
藤田一照さんという、禅の世界に於いては「大物」をお招きしての対談でした。
そもそも、一照さんとの出会いは、いつ頃なのか、そんなに古い話ではありません。
お名前は早くからうかがっていましたが、一照さんの『現代坐禅講義』という本が出て、その本を拝読して、これほどまでに真摯に坐禅に取り組んでおられる方がいらっしゃるのだと深く感銘を受けました。
初めて直接お目にかかったのは、龍雲寺で講演を拝聴した時ではなかったかと思います。
だんだんとご縁が深まり、『現代坐禅講義』が角川ソフィア文庫になるときには、その文庫本の帯を一照さんに依頼されて書いたのでした。
円覚寺にも何度もお越しいただいています。
修行僧たちにも坐禅の指導をいただいたことがあります。一照さんのご指導は親切なので、雲水たちには好評なのであります。
この四月にも、「禅と今」という曹洞宗の企画で一照さんとの対談が予定されていたのですが、ご承知のコロナ禍によって来年に延期になりました。
今回は、円覚寺のYouTubeチャンネルでの企画であります。
一照さんは、曹洞宗の僧侶としてご活躍ですが、実は初めて坐禅をなされたのは、円覚寺の居士林でありました。
まだ先代の管長足立大進老師が、管長にご就任なされて間もない頃であります。
居士林で行われた学生坐禅会に参加されたのでした。
学生坐禅会というのは、今はもう完全に無くなってしまいましたが、早稲田や一橋、学習院などの大学に坐禅のサークルがあって、その方たちを中心にして、学生たちが、自主的に四日から五日ほどの摂心を居士林で行っていたのでした。
学生の幹事さんなどは、あらかじめ僧堂の摂心に参加して、僧堂の規矩を学んでおいて、僧堂と同じような修行を自分たちで行っていたのでした。
一照さんは、大学院の頃に東洋医学にご関心を持たれたようで、伊藤真愚先生とご縁がありました。
伊藤先生は朝比奈宗源老師の頃から居士林で熱心に参禅されていた方なので、伊藤先生の導きによって円覚寺の学生坐禅会にご参加されたのでした。
伊藤先生は、私が修行時代にも熱心に摂心などにご参加されていて、懐かしく思い起こしました。
更に鍼灸医の横田観風先生に出逢い、そのご縁で練馬の広徳寺の福富雪底老師にご縁がつながります。
それまで一照さんにご縁のあったのは、すべて臨済の方ばかりです。
そのまま行けば、今ごろ臨済宗の老師になっておられたと思われますが、雪底老師の意外な一言によって、曹洞宗の修行道場に行かれたのでした。
そんないきさつなどから、あれこれとお話いただきました。
学生の頃のお話で、東洋医学を学んだり、合気道や野口体操など、いろんなことを学んでおられて、山本玄峰老師の『無門関提唱』を読まれたそうです。
玄峰老師が「性根玉」がしっかりしないとゆけないと説かれているのを読まれて、自分にはこの「性根玉」がはっきりしていない、あれこれ学ぶのではなく、一度徹底して修行して「性根玉」をはっきりさせないとどうにもならないと痛感して、出家を決意されたとのお話でした。
玄峰老師の『無門関提唱』が一照さんにも大きな影響を与えたと初めてうかがうことができました。
じっくり対談しましたので、いろんなことが分かりました。
またしばらくしたら、公開されますので、どうぞお楽しみにしてください。
横田南嶺