今日の言葉
孤独の豊かさ
「スティホーム」といえばやや自粛の促しめくが、わが国には「家居」という、どこか安らぎ愉しむいいことばもある。
という一文が目に入ってきました。五月二十五日の毎日新聞、「俳句 月評」に書かれた岩岡中正先生の言葉でした。
題が「本当の豊かさとは」です。
そこに、田中裕明さんの
小鳥來るここに静かな場所がある
の一句が紹介されていました。
微笑ましい、よい句だなと思いました。
それぞれに、それぞれの居場所があるのです。
なぜその場所に落ち着けないのか、本当の居場所はどこか別のところにあると思ってしまっているのでしょう。
坐禅は、今坐っている座布団の上で、呼吸しているだけで、「ここに静かな場所がある」のです。そしてそれこそが、本当の豊かさなのであります。
歌人の木下利玄さんに
牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ
という和歌があるのも思い出しました。
曹洞宗の青山俊董老師からお手紙を頂戴しました。
昨年の夏に青山老師の塩尻のお寺無量寺で、講演をさせていただき、本年も伺うことになっていたのですが、今年は中止となり、また来年伺うこととなりました。
その日程の打ち合わせなどの要件でしたが、末尾に、
「コロナウイルス騒動のお陰で時間というありがたい贈り物をいただき、ここ四ヶ月前後、病院以外は一歩も外に出ることなく、雲水と動静一如できる喜びをかみしめております」
と書かれていました。
このことは、まさに私も同様であります。
ここに居ることの安らかを愉しんでいるのであります。
そして、それが、どこにいても、そこにいることの安らかを得られるようにまでなればいいのですが…
横田南嶺