つながる幸福
毎日新聞朝刊を開いていて、神奈川版に「県内三十五人」という文字が目に入りました。
てっきり神奈川県内の新型コロナウイルス感染者の数だと思っていたら、よこに「春の褒章」と書かれていました。
自分自身が、何を見ても新型コロナに見えてしまう状態になっていることに気がついて思わず苦笑しました。
同じ朝刊に、京都大学長の山極寿一先生が、「シリーズ 疫病と人間」という特集に寄稿されていました。
山極先生は、ゴリラの研究で世界的に知られた方です。私も何冊か著書を拝読していて、その見識には敬意を抱いています。
この寄稿文も考えさせられる内容でした。
その中で「つながる幸福」という小見出しで、
「まだ特効薬が開発されていない現在、ウイルスの感染を防ぐには人と人との接触を避けるか、複数の人が触れるような共有物を排除するしかない。
それは、人類が進化と文明の歴史を通じて育て上げてきた人のつながりを断ち切ることに等しい。」
と書かれていました。
人間にとって、人と人とのつながりは、幸福をもたらす大切なものなのです。
親しい人とだんらんの時を過ごしたり、みんなで食事をすることは、つながりを増やす為には大事なものです。
それが今、制限されるのですから、山極先生は、
「人間の根源的な欲求を押しつぶす」
ことだと指摘されています。
そして更に
「私はかねてインターネットやスマートフォンなどの情報機器が人々の身体による交流を妨げるとして、使い方を制限したほうがいいと警鐘を鳴らしてきた。
しかし、この事態に至ってはむしろ情報機器を賢く利用して、人々の最低限のつながりを確保したほうがいいと思う。」
と書かれていました。
私たちの禅の世界では、面と面と向き合って伝えることを大事にしています。
ですから、インターネットなどには抵抗をもっています。
しかし、今このような状況下では、何ができるかと考えた時に、
お若い和尚様方が、オンラインでの坐禅会を始めたりなさることはよいことだ思っています。
現に私自身が、こうしてネット上に毎日雑文を綴ったり、つまらぬ動画を撮って配信したりしているだけでも、
心の支えになっていますなどというお手紙を最近よくいただくようになりました。
やはり、外に出掛けられない中では、こんなささやかな活動もお役に立っているのかと思います。
私は、むしろこのような状況から、今までになかった新しいものが生まれてくることをワクワクしながら期待しています。
遠い昔には、蓮如上人などは、手紙をたくさん書かれて布教されていました。
普段会えなくても、手紙で伝わるものがあったのです。それがいま経典のように読まれているのです。
現代の新たなつながりが生まれても不思議ではありません。
山極先生は、
「最も懸念すべきは、この分断によって社会に共感力が失われることである。
それは人間と類人猿を分ける最も大きな違いであり、共感なき人間の社会はない。」
と言い切られていました。
どうぞ、しばらく坐禅会も説教会もできない今、「管長のページ侍者日記」でもお開きくださいませ。
先日もいつも日曜説教に来て下さる方から「お寺には行けませんので、パソコンを開くのが楽しみです」というお葉書をいただきました。
有り難いことです。
横田南嶺