宇和島の大乗寺
宇和島にある大乗寺は、四国唯一の臨済宗の僧堂であります。
吉田藩伊達家の菩提寺であり、坂村真民先生が四十代の頃参禅に通われたお寺でもあります。
その大乗寺の住職であり、僧堂の師家であるのが河野徹山老師です。
河野老師は、私の大学時代の後輩であり、学生の頃共に坐禅をしていた友であります。
老師は、平林寺で出家され、糸原圓應老師、野々村玄龍老師について修行されて、平成二十年に宇和島の大乗寺にお入りになられました。
私とは、学生の頃から実に三十五年にわたるご法愛をいただいてる老師であります。
今から十二年前の二月に、老師はこのお寺に住職、師家として入寺されました。
四国とはいえ、雪のちらつく中の入寺式でした。
平林寺からも、糸原圓應老師や野々村玄龍老師、それに今の師家である松竹寛山老師もお見えになり、私も鎌倉から出かけてお祝い申し上げたのでした。
その二年後に、晋山式という、正式に住職として披露なされる式典も挙行されました。
もちろんのこと、私も参列させていただきました。
宇和島は、円覚寺の中興である大用国師誠拙禅師のご生誕の地でもありますので、大遠諱に先駆けて、円覚寺派の和尚たちで大乗寺の団体参拝もさせてもらっています。
河野老師は、入山されてから、いたんでいた本堂や諸堂の修復に力を注がれ、十年かけて、すべてきれいに直されました。
今から二年前に二月に、その落慶の大法要を営まれたのでした。
私も鎌倉から駆けつけ、入山十年でよくこれだけ復興されましたとお祝いを申し上げました。
しかしながら、なんということか、その年の夏に豪雨で大きな被害を受けてしまいました。
せっかく十年かけて復興されたのが、水害に遭ってしまい、河野老師がどれほど落胆なされたか、長年のおつきあいをいただいている私には、察するにあまりあるものでした。
円覚寺の僧堂の雲水たちにも、何度もボランティアで復興のお手伝いに通わせていただきました。
私もすぐに駆けつけようと思ったのですが、私が今駆けつけても泥をかき出せるわけでもなし、かえって先方にご迷惑をかけるだけになってしまうと、行くことは控えて辛抱していました。
ようやく、この二月二十二日に愛媛県砥部町坂村真民記念館で講演をするため国に渡りますので、その前日に大乗寺にお伺いさせていただきました。
河野老師は、最近東京の湯島麟祥院で行っている臨済録の勉強会にも毎月ご出席くださっていますのでよくお目にかかっているのですが、ようやく大乗寺のお見舞いをさせていただきました。
十年かけて諸堂復興をし、災害にあって、また立ち直られ、河野老師は一段と境涯が高く、そして深くなられたように感じられました。
毎月都内の勉強会に通われるほど学問にも造詣が深く、私も本当に心から尊敬申し上げる老師であります。
横田南嶺