「きょうはねはんえ」
坂村真民先生に涅槃会を詠った詩がございます。
「きょうはねはんえ」という題で、これはすべてひらがなだけで書かれています。
きょうはねはんえ
とりのなくねにも
かなしみあり
さむきあめふりいで
はやくくれたれば
はやとをしめ
とおきひの
かなしみにひたる
とりよ
なにをわれにかたらんとするか
なべてものはうつろいゆく
おこたらず
つとめよと
なれもまた
いうなるか
という詩です。
詩の最後にある、「なべてものはうつろいゆく おこたらず つとめよ」が、お釈迦さまの最後の言葉であると言われます。
いよいよお釈迦さまがお亡くなりになると分かって、長年おそばにお仕えしてきた阿難尊者は、悲しみに耐えきれなくなりました。
一人部屋でさめざめと泣いていました。
阿難の姿が見えぬことに気がついたお釈迦さまは、阿難を呼んでこさせます。
そして静かに語りかけられました。
「阿難よ、やめよ、悲しむな、泣くな。
阿難よ、わたしはかつて説いたではなかったか、すべて愛し親しめる者も、ついに生き別れ、死に別れ、死してはその境界を異にしなければならぬと。
一切は滅びゆくものであって一たび生じたものがいつまでも存することがどうしてあり得ようか。
阿難よ、なんじは長い間にわたって、よくわたしに侍ってくれた。
なんじの挙止は慈愛にみちていた。
なんじの言葉も慈愛にみちていた。
なんじの思いも慈愛にみちていた。
それらは類いなき、二つなきものであった。
阿難よ、なんじはよく為したのである。今より後も、更に精進してすみやかに最高の境地に到るがよい」
と、お釈迦さまは実に慈愛にみちた言葉を阿難尊者におかけになりました。
お釈迦さまは、そこで大勢のお弟子たちに、わが教えについて疑いや惑いがあるのなら、問うがよいと仰せになりました。
三度問われましたが、お弟子たちは皆黙っていました。
阿難尊者が、お釈迦さまに
「いまや一人も、お釈迦さまの教えについて疑いや惑いのあるものはいません」
と申し上げました。
そこでお釈迦さまがお弟子たちに言われました。
「では、なんじらに言おう。
すべてのものはうつろいゆく、
怠ることなく
精進せよ」
かくして静かにお釈迦さまは息をひきとられたのでした。
実に荘厳なるご最期でありました。
本日は涅槃会、お釈迦さまをおしのびしましょう。
横田南嶺