「驪龍頷下の珠」
驪龍頷下(りりゅうがんか)の珠とは、驪龍という黒竜のアゴのしたにあるという珠で、
「命懸けで求めなければ得られない貴重なもののたとえ」であるといわれます。
もとの話は『荘子』にあります。
或る人が、宋の王様から車十台もの褒美をいただきました。それを荘子に自慢して見せますと、
荘子はこんな話をしました。
黄河のほとりに、家が貧しくヨモギを編んでもっこを作りそれで暮らしを立てている者がいました。
ある日、息子が黄河の淵にもぐって価千金ものすばらしい真珠を拾ってきました。
すると父親は、息子にいますぐ石でその珠を砕いてしまえと言いました。
価千金も真珠は深い淵の奥底の黒竜のアゴの真下にあるものだ。それを取ってこれたのは、
きっと竜が眠っている時だったのだ。やがて竜が眼を醒ますと、そなたは食われてしまうに
違いないと言うのでした。
そんな話をして、荘子は言いました。宋の王の恐ろしさは、黒竜どころではない。
いまたまたまそんな褒美をいただいて喜んでいても、きっとそのうち大変な目に遭うだろうと。
この話をもとにして、禅では、本当の珠は、自ら命をかけて取らなければならないこと、
そして更に禅では、命がけで得たものであっても、それを後生大事に抱えていてはまだ駄目であることを説きます。
苦労して得た悟りであろうと、それを叩き割って捨ててしまってこそ、真の自由が得られます。
「驪龍領下の珠を撃砕し、敲き出す、鳳凰五色の髓」や「手に白玉の鞭を把って、驪珠尽く撃砕す」
などという禅語としても用いられます。
(平成30年11月22日 横田南嶺老師 入制大攝心 『武渓集提唱』より)