ミカンの湯ー政黄牛のこと3
ある禅僧が、政黄牛のもとを訪ねてきました。夜が更けたので、一晩泊めてもらうことにしました。
政黄牛は、きれいなお月様を眺めながら、世間の人達は、ただあくせくとはたらいて心が乱れるばかり、
こんなきれいなお月様を今見ている人は、いったい何人いるだろうかなどと話しかけます。
客人は、そうだなと答えていると、政黄牛が、寺の小僧さんに、火をおこさせて、
何かを炙っているようです。客人は、ちょうどお腹が空いていたので、
これは晩ご飯をつくってくれているのだろうと思っていました。しばらくして、
小僧さんが、ミカンの皮を炙ったのを一碗の白湯に浮かべてもってみえました。
客人は、このいかにも風流なおもてなしに感嘆しました。なんと清々しいのだろうかと。
お腹はふくらまないかもしれませんが、心が満たされるという、
そんなおもてなしもあるのだと思います。
(横田南嶺老師 『武渓集提唱』提唱より)