一日一語 74
私が僧堂の修行をお終えた時、松原泰道先生に生涯保つべき言葉を
書いてくださいとお願いしましたら、「衆生無辺誓願度」と書いてください
ました。生きとし生ける者の悩み、苦しみは限りないが誓って救っていきたい
と誓う心。平たく言うと、いのちあるもの皆、幸せであるよう願う心、
他人様のために尽くす心です。私はこの言葉しかありませんと。泰道先生は
その言葉を決して失うことなく、身を修め続けてゆかれました。
自分が何か得たい、特別な体験をして偉くなりたいというところには
魔がさしたり、思いあがったりしまう。商売も同じで、自分の儲けばかりを
追求する人は大した商売人ではないし、すぐにうまい話に引っかかったりします。
禅では魔境に落ちるといいますが、その程度のことだと思います。
しかし、他人様のお役に立ちたい、世の中のために何か尽くしたと思って
商いをする人は、大きな仕事ができます。決して小さなものに引っかかりは
しないのではないでしょうか。
泰道先生の生活を拝見しておりますと、自分のためなどということは、
これっぽっちもございませんでしたね。御仏の尊い教えを少しでも
多くの方々に広め、幸せな人生を送っていただきたいという一念を
最後まで貫かれました。
ですから私も、泰道先生の衆生無辺誓願度という火を受け継がなければ
ならないという思いで、日々身を修めております。
{月間誌『致知』2013年2月号 横田南嶺老師の言葉より}
<写真・文 投稿 ARAI様>
「今年も最後の土曜座禅会。ありがたく参禅させていただきました。
秋が終わり、座禅会が終わるともう夕暮れ。
ちょうど夕日を浴びた選佛場の側面の古い窓です。
灯がともったような暖かな姿は、何か古い経文のようにもみえました。
錦秋の境内もようやくひと段落し、これから始まる長く静かな冬の夜。
「老窓(ろうそう)は語る。」といったところでしょうか…」