鎌倉彫
2013年の季刊『禅文化』228号に、
当時禅文化研究所に勤めていた川辺紀子さんが、
「大香合献納 鎌倉彫 三橋鎌嶺」という文章を書かれていました。
(川辺さんは、只今の東慶寺の井上紀子夫人であります)
その記事では、鎌倉彫の職人である三橋鎌嶺(みつはし けんれい)氏が、
建長寺に大香合(こうごう)を奉納されたことが書かれていました。
そして、その記事の中に、鎌嶺氏のご子息、三橋鎌幽(みつはし けんゆう)氏のことも紹介されていました。
記事を読んで、若い鎌倉彫の職人、三橋鎌幽氏を応援してあげたいと思って、
私が個人で使う香合を作ってもらい、
それから円覚寺に第二世大休正念(だいきゅう しょうねん)禅師の塔頭蔵六庵を再建した折には、
そのお位牌を作ってもらっていました。
この度、円覚寺では、釈宗演老師の百年諱と
大用国師誠拙禅師の二百年諱を勤めましたので、
その記念に、鎌幽氏に大香合を作ってもらおうと思いました。
この遠諱の記念事業では、
慶應義塾大学、花園大学、鎌倉国宝館、三井記念美術館などで
特別展を行ってきました。
それらの展示において、円覚寺に伝わるすばらしい寺宝の数々を紹介させていただきました。
しかしながら、それらの重宝はすばらしいものですが、
ことごとく過去のものであります。
そこで過去の遺物を紹介するだけでなく、
これから将来寺宝になるものも残しておきたいと思ったのであります。
そういう次第で、鎌幽氏に、
将来円覚寺の重宝になるような大香合を作ってもらいたいとお願いしたのでした。
円覚寺は瑞鹿山といい、開山無学祖元禅師は開堂された折に、
鹿が現れて説法を聴聞されたという伝承があります。
そこで、大香合には、その瑞鹿を彫って欲しいとお願いしました。
中央に鹿が彫られているという斬新なデザインとなりました。
三橋家に伝わる伝統の技が駆使されていて、
彫りが実に深く、朱の色も実に鮮やかで、将来必ず文化財になるであろうと思います。
蓋の裏面には、私の拙い字で、
釈宗演老師と誠拙禅師との御遠諱を記念して
三橋鎌幽氏に大香合を作っていただいたことを明記しておきました。
後の世に誇ることのできる宝物を作れたことを嬉しく思っています。
来月三日に開山仏光国師の毎歳忌に初めて使わせていただこうと思っています。
写真は、大香合と三橋鎌幽氏。
横田南嶺