お豆腐
知人から、お豆腐をいただきました。
その美味しいこと、おいしいこと。
普段はせいぜい半丁いただくのですが、
おもわず一丁いただいてしまいました。
お豆腐を下さった知人のいうこところでは、
なんでもその豆腐屋の主人という方は、
家業の豆腐屋を、二十五歳で継いで
おもにスーパーへ豆腐を卸していたそうです。
ところが、スーパーへの卸は価格競争が激しくなって、
低価格と大量生産を求められる日々を送られたそうです。
一日に何万丁ものお豆腐を作っていたといいます。
お客さんに美味しい豆腐を提供したいが、
会社経営と大勢の従業員を路頭に迷わせないために
求めれる低価格のお豆腐を作り続けていったそうなのです。
しかし、ついに「本当に美味しいお豆腐を作りたい。」
という思いが止みがたく、
大きな豆腐会社へ自社を譲渡して、
また、一からお豆腐屋を開業したらしいのです。
日本にある二万種類の大豆のなかから
こだわりぬいた大豆を使用し、
すべて手づくりで
自分の納得できるお豆腐を
毎日作っているのだそうです。
「30年豆腐しかやってこなかったからこれしかできない。」と
いって、作っているお豆腐なのでした。
そんな思いのこもったお豆腐を
知人が、是非私に食べて欲しいともってくださったのでした。
一生懸命作ったお豆腐屋さんの主人の思いと
私に食べさせたいとわざわざ買って届けてくれた知人と
いろんな思いが凝縮したお豆腐だと思うと
なお一層、濃厚な味わいがしました。
お豆腐一丁、恐るべしであります。
横田南嶺