青山俊董老師の心づかい2
二十四日は、午前と午後で
九十分ずつ二講座を勤めて
塩尻に宿泊。
明くる二十五日、もう一講座勤める為に
無量寺に参りますと
昨日同様に、青山俊董老師は野点席で
お待ち下さっていました。
今朝もまた、老師の野点をいただけるとは
有り難いと思って、席に坐ると、
昨日とは、また異なる趣向がうかがえました。
その日の朝は、前日よりも更に一層涼しく感じられ
青山老師も膝掛けを用いられているほどでした。
そこで、水差し、棗など、昨日は夏の趣向であったのが
今朝は、秋の趣向に替えてくださっていました。
前日は、珍しいガラスのお棗であったのが
秋の草の蒔絵にお棗になっていました。
さらに、柱にかけた短冊が
今朝は松原泰道先生の「無事貴人」の書に
掛け替えられていました。
昨日の講座で私と松原泰道先生との出会い、
そしていただいた教えを
語りましたので
青山老師がそれをお聞き下さって
わざわざ泰道先生の短冊を出してくださったのでした。
実に到れり尽くせりとはこのことかを感服。
青山老師は、今春脳梗塞を患われて
更に最近心筋梗塞をも患われ、ご入院も
なさっていて、
この夏の会も開催が危ぶまれたほどらしいのです。
しかしながら、お見受けした限りでは、全く
そのようなご様子はうかがえません。
まるでお皿のようなひら茶碗に、
きめ細かな泡の立ったお茶を点てられていました。
あんな平らなお茶碗に、ふちギリギリほどまで
お湯を入れて茶を点てるということは
容易のことではありません。
それを、私たちと談笑しつつ
さらさら点てられます。
お手前に見入っていて、
私が思わず、「ご老師は裏千家で学ばれたのですか」と
尋ねますと、
青山老師が「いえ、本当は、表千家なんですと」と仰せになって
茶筅をゆるゆる振りながら、
「表さんでは、泡をあまり立てませんね
しかし泡を立てずにお茶を点てるのは難しいです。
お裏さんでは、泡をしっかり立てますね、
でも泡が立っていても、お茶が点っていないことが多いですね。
まあ、私のは裏表流で…」といいながら微笑されています。
ハッとさせられることを、さらりと仰せになりながら
実に美味しいお茶を点てられました。
お菓子には、今朝お庭でお取りくださったという
白いつゆくさの花が添えられていました。
これも前日の講義で、坂村真民先生の
「つゆくさのつゆにもめぐりあいの不思議を思い」
という詩を紹介して話しをしたことに因んで
青山老師が、ご自身で摘んでくださり
添えられたものです。
心づかいも、ここまで到れば、
もはや慈悲の極みと言うべきか。
横田南嶺