ととのいゆるむ
その日は円覚寺で修行してきた者が、新に円覚寺派の和尚になるという儀式を行っていました。
その儀式を終えてすぐに京都に向かいました。
禅文化研究所の評議員会であります。
儀式については円覚寺の法務部で決めてくださいます。
私の予定については教学部で決めてくださいます。
それぞれが打ち合わせてくださればいいのですが、なかなかそうも行かず、その両方の部に関わる私の体は一つなので、かなり無理をしないといけないことがあります。
今回もまさしくその通りであります。
行事を終えてあわてて電車に飛び乗ります。
帰ってからもすぐ円覚寺の法務部の仕事で、京都から帰って休む暇もなく、法話を務めていました。
お仕事をいただけるのは有り難いことですので、倒れるまでお勤めさせていただく思いであります。
評議員会などは、臨済宗の要職の方、或いは学会の要職の方々がお集まりくださりますので、所長としては緊張するものであります。
どうにか終えて、市内で一泊して、朝は西本願寺にお参りしていました。
そのあと9時過ぎから禅文化研究所でYouTubeの撮影をしました。
終えてから大学の授業に臨みます。
次の日に鎌倉に戻ってきました。
戻ってすぐに着替えて法話をしてその午後から西園美彌先生をお迎えして講座を開いていただきました。
慌ただしい日程で、新幹線で移動中には、そのまた次の日の住職研修会の資料作りに追われるという状態であります。
それでも西園先生の講座を受けさせていただくと、身心ともにとてもととのうものであります。
修行僧たちに混ざって共に学べるのはありがたいことであります。
今回は藤田一照さんもご参加くださいました。
また井上欣也さんも参加されました。
西園先生の講座では二人一組になって行うことが多いのです。
今回の参加者は奇数となった為に一人余ってしまいます。
そこでこのたびは西園先生のご指名で私が先生の実験台となりました。
これがまた有り難いことです。
すでに六十を超えて体は老化の一途をたどっているのですが、どうにか若い人たちについていこうと努力させてもらえます。
西園先生の講座では毎回修行僧達に、前回の講座からあとの変化や、感想、それに自分の体について課題と思っていることなどを聞いてくださいます。
何か質問しようと言葉にすることだけでも、その人の体には変化があると思っています。
ある修行僧が坐禅の時の背中の痛みを訴えていました。
正座していると痛くないそうですが、坐禅の脚を組むと背中、腰の上あたりが徐々に痛んでくるというのです。
西園先生は、痛みが出るというのは「力がこもっている部位」と「休んでいて使えていない部位」とがあるからだと仰っていました。
特に骨盤と肋骨の間、背骨しかなく、まわりが筋肉で覆われているところの支える力が低下しているからだと指摘されていました。
体幹の要はおへその下、丹田にあるのであって、その丹田が確立すると骨盤と肋骨の間の胴体がふわっと保たれ、上半身の過緊張が解けるというのです。
逆に丹田が曖昧だと胴体が不安定となり、肩が外れてしまうこともあるかもしれないというのです。
正しい連動というのは「お尻が締まる、脇が締まる、胴体が安定する」であり、全身がまんべんなく使われる状態こそ理想だというのです。
それからワークが始まりました。
今回は、足にはほとんどふれずに上体をととのえてゆきました。
腕の内旋と外旋を丁寧に行いました。
これは今までも何度も経験させてもらっているのですが、今回西園先生に直にご指導いただいてより一層深まった思いでありました。
手のひらで床を踏むということも行いました。
四つん這いになって手のひらで床を押すというのです。
膝でも床を押すというのですが、はじめは私もどうにも床の上に乗っかっているだけでとてもではありませんが、押すという感覚が得られません。
それでも手の形などいろんなことを教わるうちに、手の平の根本の方、手根で押すことができるようになってきました。
膝でも床を押している感じになるのです。
それから太ももの内転筋を鍛えるワークを行いました。
これがかなりきつい動きでありました。
若い修行僧達も真剣になって取り組んでいました。
内転筋というのは、坐禅して腰を立てるのにとても重要な筋肉であります。
イスに坐っても内転筋をしっかり使うと腰が立つのです。
内転筋は骨盤を下から支え、腰を立てるための土台となります。
内転筋がしっかりはたらくようになると、骨盤が左右にぶれず、坐骨が安定するのです。
骨盤が後ろに倒れにくくなります。
逆に内転筋がはたらいていないと、骨盤が後傾し腰が丸くなるのです。
内転筋を使うと内ももの張りが出ます。
内転筋のワークをしてから坐ると、とても安定するのです。
腕の内旋外旋を丁寧に行うと上体がとても安定します。
目のワークも行いました。
目の動きは首の動きに連動し、肩まわりもほぐれます。
今回私は脇が締まるということをしっかり学ぶことができました。
脇が締まると、手根で押せるようになるのです。
皆と一緒になって汗を流しながら、三時間があっという間に過ぎます。
終わり頃になると、皆の立っている姿がとてもきれいになっているのに驚きます。
これが足で床を押して踏んでいる姿勢なのだと分かりました。
足でしっかり踏んでいるので、自然と上体が伸びているのです。
自分は固めようとしてなくて、ただすっと立っているだけで強くなっていると感じるのです。
体には無理のない強さと余裕としなやかさがあるように感じられます。
ゆったりとどっしりしているのです。
地に足がついている感覚がはっきりしています。
そうするとどっしりしていて、しかもどこにでも動けるのです。
更に西園先生は「いろんな思考も受け入れる余裕がある。あるべき場所に骨格が来ると、余裕が生まれる。それが心の余裕でもあり、弾力でもあり、思いやりや優しさや愛の深さにもなるのだ」とお話くださいました。
立って床を押していると、丹田がはっきりします。
丹田があるから足で床を押せるのです。
だから足と丹田とは連動していると西園先生は教えてくださいます。
立って踵で床を押している感覚が、坐ると座骨で床を押すようになるのです。
そうして皆でひととき坐りました。
いつも感動するのですが、皆がほんとうに心地よく坐れているのが分かります。
正しくととのうと体から力みが抜けて、ゆるんでくるのです。
ストレッチをしてゆるむのとはまた違った感覚です。
終わった後に歩くと、足が床を押して上に体が伸びるのを感じるのでした。
そうすると疲れもとれているのでした。
横田南嶺