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臨済宗大本山 円覚寺

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2026.05.15
今日の言葉

落語と法話

先日は、東京文京区にある白山の龍雲院で法話を務めてきました。

こちらのお寺は、私が学生時代に出家得度した寺であります。

このお寺の住職であった小池心叟老師にもとで出家したのでした。

今も龍雲院に行きますと、小池老師のもとで修行していた頃を懐かしく思い出します。

早いもので小池老師もお亡くなりになって今年でもう二十年になります。

私が初めてこのお寺で小池老師にお目にかかったのは、もう四十三年前のことになります。

懐かしい思い出であります。

お寺では施餓鬼といって檀信徒の皆さんのご先祖のご供養を致します。

龍雲院では五月九日に行っています。

都内の円覚寺派の和尚様方を招いて施餓鬼法要を勤めます。

その前に法話がございます。

小池老師の頃からこのお寺では落語と法話を行っていました。

小池老師は落語にも造詣が深く、若手の落語家さんのためにお寺の本堂を寄席として提供していた頃があったのです。

その頃の若手の落語家さんがご立派になられて、施餓鬼の法要の前に落語を一席お願いしていたのでした。

六代目古今亭志ん橋師匠に来てもらっていました。

小池老師の晩年、私が龍雲院の兼務住職を務めるようになりました。

そうすると、私が師匠をお迎えする役目となります。

師匠が見えて控え室でお茶を差し上げて挨拶をします。

はじめの頃私は落語について全く知識がありませんでした。

そうすると控え室でも話をしようにも話が弾みません。

お招きするからにはこちらも落語についてある程度の知識がないと申し訳ないと思いました、

私も講演に招かれて行っても、先方の方が、円覚寺が何宗の寺かも知らないし、私が紀州の生まれだとか、毎日YouTubeラジオをやっているとか、禅について何も知らないとなると、あまりいい気持ちがしないものです。

そこで落語のことや師匠のことを学ぶようにしました。

古今亭志ん朝師匠のお弟子らしいということがわかり、五代目古今亭志ん生のこともよくご存じなのです。

そういうことを知ると、志ん生師匠という方はどういうお方でしたかと聞くことができます。

晩年に志ん生師匠にお仕えしていた頃の話を楽しそうに聞かせてくれたものでした。

そうしている内に落語の演目について、落語が終わった後に今日の演目はなんと言うのですかと聞いて調べたりしていました。

そうしているとだんだん私も落語に少しずつ詳しくなってきました。

するとある年には、これは「火焔太鼓」だと分かりました。

終わって師匠に今日のは「火焔太鼓ですね、有り難うございます」と申し上げると嬉しそうにしてくださっていました。

そうしている内に落語と法話と別物では面白くないと思いました。

落語のなかにも単に面白おかしいのもありますが、深く考えさせられる話もあるものです。

落語の話から法話へと結びつけてみるとどうだろうかと思うようになりました。

そこで師匠に相談をしてあらかじめこちらから演目を指定させてもらって、その演目の内容を受けて法話をするということにしてみました。

はじめは師匠に文七元結をお願いして、そのあと私が仏教の利他の精神について法話にしてみたのでした。

そんなことをやっていると、今までは師匠は落語が終わるとすぐにお帰りになっていたのですが、自分の落語をそのあとどんな法話になっているのか気になるのか、落語のあとも残って法話を聞いてくださるようになりました。

そうして師匠と語り合うことが楽しくなってきたのでした。

ご夫婦で円覚寺まで訪ねてきてくれたこともありました。

コロナ禍となってこの法要もお休みにしていたのですが、なんと今から三年前に師匠はお亡くなりになってしまいました。

コロナ禍が終わってまた落語と法話を再開するのを楽しみにしていたのですが、かなわなくなりました。

そこでどうするか、選択肢はいくつかあります。

落語をやめて法話だけにする、新しい落語家さんにお願いをする、いろいろあります。

しかしながら、なんと私が一人二役をやるということになったのでした。

もっとも落語というのはとてもたいへんな芸能であり、素人が真似のできるようなものではありません。

短い落語を覚えて稽古して素人芸を披露しています。

幸いに龍雲院は私が出家した寺であり、私の学生時代から知ってくださっている方もいらっしゃるので暖かく聞いてくださるのであります。

志ん橋師匠が亡くなって今は新しく七代目古今亭志ん橋師匠がいらっしゃるようであります。

世の中は遷り変わります。

落語についてはそもそも、安楽庵策伝というお坊さんが落語の祖であると言われています。

近世初頭の説教僧でした。

美濃国(岐阜県)の人です。

幼年期に浄土宗の僧となり、青年時代に山陽、近畿地方で説教僧として活躍されたお坊さんです。

一六一三年に京都の誓願寺の五五世住職となって、その折に『醒睡笑』八巻を著わしました。

このお坊さんがとても快弁で落し噺を説教の高座で実演し、その話材を『醒睡笑』に集めたので、落語の祖と言われるそうです。

もともとお坊さんがやっていたというのですから、今お坊さんが落語をしても悪くはないだろうと思ったのでした。

落語と法話と一人で行いますので、前半は落語を覚えて稽古して披露しておいて、その話を受けて後半に法話をするのです。

法話だけならば慣れていますが、落語も行うというのはかなり難しいもので、毎年苦労します。

しかしながら慣れないことをがんばって覚えるのも脳の活性化になると思っています。

前半は大いに笑ってもらって、後半はしんみりと法話をするという構成は悪くないと思っています。

今回も前半の落語のサゲがついたところで拍手が沸き起こり有り難いことでありました。

どんなご縁をいただいても、いろいろと勉強をさせてもらえるので有り難いことだと受けとめています。

なんでも勉強、なんでも修行であります。

 
横田南嶺

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