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臨済宗大本山 円覚寺

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2022.12.02
今日の言葉

手間ひまかけること – 智慧と慈悲 –

臘八摂心の前の日曜日二十七日、円覚寺本山の日曜説教で教学部長の松原行樹和尚がいいお話をしてくださっていました。

多くの方にご視聴いただいているように有り難く感謝します。

松原部長が、ご自身の祖母を最近亡くされてその体験をもとに心温まるお話をしてくださっていました。

その中で森繁久彌さんの話が出ていました。

これは、盛永宗興老師という花園大学の学長をお務めになられた老師の著書に載っている話です。

これがいい話なので、私も改めて老師の『禅・空っぽのまま生きる』(大法輪閣)を読み返していました。

松原部長も法話の中で引用されていたところを、もう一度読んでみます。

「私は七、八年前にある雑誌で、 森繁久彌さんという役者の対談を読んだことがあるのですが、これが忘れられない、いい話でした。

…

森繁久彌さんの友人に、ある会社の社長がおられて、この人がロータリークラブの会長に就任された。

そのとき、社長はロータリークラブの皆さんに赤飯を配って、次のようなお話をなさったというのです。

私は山梨県の片田舎の貧しい農家の跡取り息子に生まれたのですが、だんだん大きくなるにつれて、自分の家の畑や田んぼの広さが分かってきた。

そうすると、どんなに今後頑張ってみても、こんな狭い畑や田んぼでは年老いてゆく両親を養い、弟や妹に勉強をさせてやることも出来ない。

結局は都会へ出て出稼ぎをしなきゃ駄目だと思ったけれども、大正の終わりから、昭和の初め頃の時代、どんなに小さな田畑であっても、先祖代々の田畑を捨てて、跡取り息子が家を出て行くということに賛成し、喜ぶ親はおりません。

いいだしたら必ず涙を流して悲しがるだろう、ということが分かるだけに、それを親にはいいだせなかった。

でもいくら考えてみても、そうするしか仕方がない。

そこである晩、着古した下着類を風呂敷に包んで準備し、母親が起きるよりも二時間ぐらい早い時間に、家出をしようとしたのだそうです。

ところが台所の土間へ行ってみると、いつもは寝ているはずの母親が既に起きている。

そして振り向こうともせずに、「赤飯を炊いておいたから食べていけ」といったのです。

台所のちゃぶ台の上に赤飯が盛ってある。

その前に座ると母親が出来たての味噌汁を添えてくれる。 一口、口へ入れたけれども、何か固まりみたいなものがここへ (喉へ) 突き上げてきて呑み込めない。

その様子を見て母親が、「起きたばかりで食べられないのなら、握り飯にしてやるから持っていけ」といって握り飯を渡してくれたそうです。

それを持って逃げるように暗い外へ飛び出したのだけれども、家出をしようとする跡取り息子を引き止めもせず、怒りもせず、泣き騒ぎもせず、赤飯の握り飯を渡して送り出した後で、母親がきっと台所の板の間につっぷすなり、あるいは流しの縁にすがるなりして、泣いているだろう。

その姿が目に浮かんで、その人もまた泣きながら停車場へ行ったのだそうです。

握り飯ですから当然、食べて一粒も残っていないけれども、都会へ出て、ある程度のお金が出来、地位が出来、暇が出来ても、その母親の赤飯の握り飯が、自分のお守りとも、仏とも、神ともなって、今日まで私は脇道へそれないで来れた。

そして、お歴々の集まっていらっしゃるロータリークラブで、会長という名誉な地位にまでつけたのだ。

今日の私があるのは、ひとえに赤飯のおかげであるので、今日皆さんに食べてもらいたいのだと、こう話されたというのです。

森繁さんという人は非常な感激家のようであって、この対談を泣きながら話されたそうです。私もそれを読んだとき、大変涙が出ました。」

というのであります。

盛永老師の本を読んでみると、更に老師は、

「でも、それは、ただ単に、母親の慈愛、慈悲というものに打たれたからではありません。母親にはみんな慈悲があります。

でも、愚かな慈悲もたくさんあります。 この母親の慈悲には、素晴らしい智慧の裏付けがあるわけです。」

と書かれています。

どういうことかというと、

「当時のお母さんは多分、 明治生まれで、当時の小学校は四年しか無かったのですから、学校で学んだ知識などというのは知れたものです。しかもテレビも無いラジオも無い、新聞も各家庭では取っていませんでした。」

という当時の状況について語られていました。

それから、

「それでは子供の側にべったりくっついて育てたのかというと、そうではありません。畑仕事、洗濯、炊事、繕い物、あるいは農閑期にはわらの製品(縄など)をなったり筵を織ったり、そういう生活の中で、可愛い子供のお尻に古い浴衣で作ったおしめを二回分も三回分も巻き付けて、わらつぼの中に入れて働きに行かなければならない。

今のように、何か月の子供には何時間おきに授乳を、というようなことをやってる時代じゃありませんでした。」

という中で子育てをしていたのでした。

しかしそんな中でも、老師は次のように考察されています。

「お母さんはいつでも自分の子供を心に掛けていますから、情報として人から聞く育児ではなく、児童心理学ではなく、じかにその子の姿、その子の顔色、それを自分の目で直接、素手で触れるように、いつも子供を見ていたと思います。

だからこのお母さんは、一言も話さないのに、子供が何を考え、いつ、何日の日に家出をするのかを的確に知っていて、その日の朝早く起きて赤飯を炊いて持たせたのだと思うのです。

ここに素晴らしい智慧の裏付けのある、親の慈悲があったのです。」

というのです。

智慧の裏付けのある愛情から素晴らしい方法が生み出されたというのです。

それが「赤飯を炊いて送り出す」ということだったのです。

盛永老師は

「他に何にもしてやれない。

息子は真剣に、いい加減な考えで家を出ようとするのではない。

親のことも考えて、兄弟のことも考えて、真剣に考えた結果、家を出ようとするのだ。

だから、相談をかけられれば賛成は出来ないけれども、しかし、子供を引き止めるよりも、せめて息子の前途を祝福するために赤飯ぐらいは炊いて送り出してやりたい。

そういう素晴らしい方法、手段が生まれてきて、それが息子を大成させるお守りになった。

そういうふうに感じたから、私はこの話に感激するのです。」

と書かれていました。

久しぶりに盛永老師の本を読むと、私も改めて感動しました。

智慧と慈悲、この素晴らしいことは言うまでもありません。

盛永老師の仰せの通りなのです。

そして、またここで私はこのお赤飯に注目したいのです。

もちろんお赤飯はお祝いの時の特別のご飯ですし、また小豆には厄除けの意味があるとかいろいろの意味があると思います。

それと共に私が注目したいのは、赤飯は手間がかかるということなのです。

私たちの修行道場でも、年に何度かお赤飯を振る舞うことがありました。

ここしばらくコロナ禍でお休みになってしまっていますが、赤飯を炊いていました。

これはまず手間がかかります。

少なくとも、朝赤飯を炊こうと思ってそのお昼に出来るものではありません。

前の日から小豆を水につけて、それから時間をかけて小豆を煮て、その煮汁に餅米をつけておきます。

赤飯をふかしながらも、その餅米に小豆の煮汁をかけながら行います。

そうしてきれいな赤飯に仕上がります。

このお母さんも手間ひまをかけて赤飯を炊いて送り出してくれたのです。

手間ひまを省くことに私たちは、心奪われてきたと思います。

手間を省くことが智慧ではないのです。

むしろ手間をかける智慧から慈悲が生まれるのです。

鍵山秀三郎先生は「人を喜ばす基本は自分の手間をつかうことです。

安易な方法ほど伝わりません。

手間ひまを惜しんでいる人に真の心はやどらないからです。」

と仰った言葉を思い出しました。

息子の旅立ちを祝って、時間の無い中でやりくりして前の日から手間ひまかけて赤飯を炊いてくれた母の心を思うのであります。

 
横田南嶺

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