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臨済宗大本山 円覚寺

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2020.09.13
今日の言葉

見れども見えず

先日駒澤大学の小川隆先生に久しぶりにお目にかかった折りのこと、先生から、岩波書店が出している月刊誌『図書』をいただきました。

小川先生が、また『図書』に原稿を書かれたのかなと思っていると、その『図書』は二〇一九年二月号なのでした。

不審に思うと、小川先生が、「それは昨年さしあげたものです。「漱石の公案」という文章を載せています」

とのこと。

言われてすぐに思い出しました。昨年にこの号をいただいて読んでいました。

そのあとに、小川先生は、「実はこの昨年二月号に、「大流行により惨劇から100年 – スペイン・インフルエンザ」という、ウイルス学の田代眞人先生の論文が載っているのです」と教えてくださいました。

言われてすぐに開いてみると、たしかにその通りの文章が載っていました。

今、この『図書』を手にすれば、真っ先に読むことでしょう。

小見出しには、「大きな被害と歴史への影響」、「病原体を見つけた日本人研究者」、「インフルエンザウイルスの正体と秘密」、「日本におけるスペイン・インフルエンザ」というもので、是非とも読もうと思いました。

ところが、昨年いただいた時には、全く一顧だにしていなかったのでした。

文章のはじめには「大きな被害と歴史への影響」という題で、

「二〇一八年はインフルエンザ流行史で最悪のスペイン・インフルエンザ(日本では「スペインかぜ」と呼ばれるが「かぜ」ではない)から一○○年にあたり、世界各地でさまざまな講演会や出版が行われた。

いずれもが、一〇〇年前の災厄が忘れ去られている現状を憂慮し、その教訓を生かして、いつか必ず起こる人類存亡のインフルエンザ危機に備えて、地球全体で準備・対応することの必要性を警告している」

と書かれていました。

二〇一八年に、スペイン・インフルエンザから百年にあたって、さまざまな講演会や出版が行われたと言いますから、私の目に入るものもあったのだろうと思いますが、その頃は釈宗演老師百年遠諱の準備のために、出版展示などに忙殺されていて、まったく「見れども見えず」だったのだと思いました。

一九一八年から一九一九年にかけてのスペイン・インフルエンザの世界大流行では、当時の世界人口約二十億人の三分の一が感染し、一千万から五千万人が死亡したとされているそうです。中国・アフリカを含めると一億人を超えるとの推定もあったそうです。

一九一八年の初春にアメリカのカンザス州の新兵訓練所で季節遅れのインフルエンザ流行によって多数の兵士が入院したそうです。

その後、各地へ拡大したのでしが、通常のインフルエンザと大差なく、とくに注目されなかったとのことです。

第一波の流行は八月までに終息しました。

ところが、九月になってインフルエンザが再出現しました。この第二波が激烈で、三ヶ月のうちに欧州から全世界へと拡大し、壊滅的な大流行を起こしたのでした。

そんな文章を読んでいた折から、知人の墨蹟商の方から、「床浦大明神」という書のことを教わりました。

何でも峨山禅師の「床浦大明神」の書を入手されたとのこと。

調べると白隠禅師の年譜に「床浦大明神」のことが載っているというのです。

私も白隠禅師年譜は何度も何度も繰り返し読んでいますが、そんなことは全く覚えがありません。

早速調べてみると、確かに白隠禅師がお亡くなりになる八十四歳の項に出ていました。

禅師がお亡くなりに年のことですが、ある日禅師が夢を見たそうです。

夢に一人の老人が現れて、疱瘡にかからないお札をくださいと言いました。

当時疱瘡がはやっていたのです。

禅師は、そんなお札は知らぬと答えました。

老人は、「床浦大明神」の五字を書いてください、そのお札を朝晩崇拝すれば霊験があるというのでした。

禅師は夢から覚めて、床浦大明神のお札を授けるようになったそうです。

霊験あららかなことは老人のいう通りであったという話が載っているのです。

今読めば、白隠禅師の頃も疫病で苦労されたのだと思うのでしょうが、今まで何度も読んでいる筈なのに、全く意にもとめてなかったのでした。

やはりこれも「見れども見えず」です。

普段から、人は自分の関心のあるものしか見ていない、平等にはものを見ていないのだ、見るということには、既に自我意識がからんでいて平等ではないと話をしていたのですが、まさしくその通りでありました。

それと同時に、白隠禅師の様なお方が、当時の流行病に対してお札を書いておられた慈悲心の深さに感銘を受けました。

多くの人たちの安寧のために祈る心を忘れてはならないと思いました。

それと共に

『図書』の「大流行により惨劇から100年 – スペイン・インフルエンザ」の最後には、スペイン・インフルエンザの実態を解明した名著として、速水融先生の『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ – 人類とウイルスの第一次世界戦争』(二〇〇六年、藤原書店)を紹介されています。

そして著者の速水先生は、

「日本がスペイン・インフルエンザからほとんど何も学んでこなかったことを教訓として、その実態を解明し、今後必ず起こるパンデミックの災厄を「減災」するための事前準備と緊急対応の確立を強調している」

というのであります。

文章の最後に田代先生は、

「研究者には有効な対応手段の開発が喫緊の課題であり、行政には市民生活を維持するための行動計画を立て、実施可能に準備しておく責任がある。

しかし、現在の科学・技術と行政能力には限界があり、被害ゼロはあり得ない。

各自は、想定される最悪の事態における最善の対応方法と、自分はどのように行動すべきかを考え、普段から準備しておくことが必要である」

と指摘されています。

今読むと、その通りだったのだと考えさせられました。

普段から何を見ても、何を読んでも、自分の関心の向くものだけでなく、広くものを見て考えなければならないと反省したところです。

今からでも「想定される最悪の事態における最善の対応方法と、自分はどのように行動すべきかを考え、普段から準備しておく」必要を改めて学びました。
 

横田南嶺

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