一日五分、真剣に集中
この頃は地震が多いので、驚くことも少なくなっていましたが、熊本で地震、しかも震度七と聞くと、驚きました。
なぜまた熊本にという思いがよぎります。
熊本の大地震はまだ十年前のことであります。
震度七という数字を聞くと、かなりの被害が予想されます。
建物の倒壊、崖崩れ、道路の破損など、情景が浮かびます。
それからお亡くなりになる方もいらっしゃると思いました。
日が経つにつれて、被害の状況が分かってきます。
高速道路もかなりの被害を受けている映像などを見ると、地震の規模がいかに大きかったかと思い知らされます。
お亡くなりになった方は何名と数字で出されます。
報道ですから数字で表さざるを得ないのですが、人の死というのは数ではありません。
それぞれの人生があります。
思いもかけないところで命を断ちきられたその人のことを思うと、言葉になりません。
そしてその人を取り巻く家族やご縁のある方にとっては、大事な方を急に失うのですから、その悲しみたるや、想像を絶します。
それから被災された方々も、この夏の暑さですので、いかにたいへんなことかと思うと、これまたいたたまれない思いであります。
はじめ塾の帰りにそんな地震の知らせを聞いて驚いて寺に帰ったのでした。
その二日後に、井上欣也さんにお越しいただいて学んでいました。
控え室でもはじめ塾のことと共に、地震の話題になります。
どこで地震が起きるかは分からないのが我が国でありますが、なにもまた熊本とはと話をしていました。
はじめ塾には、井上さんも初めて行かれたので、とても衝撃を受けて、また感動されたようでした。
お誘いしてよかったと思いました。
また地震のことを思うと心が痛みます。
お亡くなりになった方のご冥福をお祈りし、被災された方にお見舞いを申し上げます。
それと共に、私たちはなにかできることを考えながら、またふだんの暮らしを行ってゆかねばなりません。
地震のことは胸に深く残りました。
だからこそ、今こうして身体を動かし、呼吸ができる日常の有り難さを改めて感じながら、井上さんとの稽古に臨んだのでした。
今回は七名の修行僧と共に稽古をしました。
修行僧がヨガについて質問したことから、ヨガの話題から始まりました。
井上さんは龍村先生について長年ヨガを学ばれてきています。
坐禅をするには、ヨガをやって身体を作っていくことが大切だとお話くださいました。
私たちは坐禅という座布団の上で坐る修行をするわけですが、これがいきなり足を組むといっても、体の硬さが妨げになることがよくあります。
それで痛みや、違和感が気になってしまい、なかなか坐ることそのものに集中できないことがあります。
昔であれば、それでもただひたすら慣れるまでやるという方法でありました。
これも一理はあります。
ただ痛みに耐えて坐るうちに、身体は精妙に調整しながら慣れていくものです。
しかし最近では膝を痛めたりしてしまうこともあります。
ヨガでは坐るための身体を作っていくというのです。
坐るために方法が順を追って組み立てられているのです。
私も長く坐るためにヨガを習っていた頃がありました。
管長になる前の頃です。
沖正弘先生のもとでヨガを学ばれた方から毎週教わっていたのでした。
そんなヨガの話から身体をほぐしていくことから始まりました。
井上さんは、ただ我慢してやり遂げるということではなく、「自分の体にきく」ことが大事だと教えてくださいました。
「体にきく」というのは、動きながら自分にとって心地よいところを探していくことだというのです。
そのためには、呼吸が重要です。
呼吸が止まってしまうと、ただ苦しいだけになってしまいます。
息をしっかり吐きながら力を逃がしていくことで、いろんな動きでも回数を重ねても苦痛ではなく、心地よい動きへと変わっていくと言われます。
ヨガでは、そうした「心地よく動ける範囲を広げていくこと」が一つの目的だと教えてくださいました。
そして、無理をしないためには、やはり顔が笑っていることも大切であり、笑顔で行うことで、痛みや苦しさも次第に心地よさへと変わっていくのだと仰っていました。
そして体を一つにして動かすことで、体がばらばらに動いてはいけないというのです。
これを「統一体」と仰っていました。
ヨガでいう「ダーラナ(Dhāraṇā)」、つまり集中も大切です。
ダーラナとは、対象と自分を結びつけることだと説明してくださいました。
それができないと、すぐに「この後何をしようかな」など別のことを考えてしまいます。
すると、体と意識と自分自身がばらばらになってしまいます。
そうではなく、今まさに使っている体の部分に意識や感覚をしっかり結びつけることが大事で、それだけで効果はまったく違ってきます。
惰性でやるのは、あまり良くありませんと仰って、「週に一回、一時間まとめてやる」よりも、「一日五分でいいから毎日続ける」ことの方が大切だと教えてくださいました。
まずは五分だけでかまわないので、その五分間は真剣に集中してくださいというのです。
五分間しっかり集中できるようになると、それが十分になり、十五分へと自然に伸びていきます。
最初から「一時間やろう」と目標を高くし過ぎると、集中が続かず、結局やめてしまいます。
ですから、まずは五分。「もう少しやりたい」と思えるところで終えるくらいがちょうどいいのです。
「私はそのように少しずつ積み重ねてきて、今の体をつくってきました。」と仰っていました。
一日五分、真剣に集中して積み重ねる、これは大事な教えだと学びました。
焦らず、少しずつ積み重ねていくことです。
そのためには、自分の体を好きになることだと井上さんは教えてくださいました。
自分の体をよく観察し、呼吸の状態にも気を配りながら、毎日続けていく、これはそのまま禅の修行に通じることであります。
地震のことは悲しいことでありますし、災害はいつ起こるか誰にも分かりません。
だからこそ私たちは、今できることを丁寧に積み重ねることが大切なのだと思いました。
横田南嶺