今年最後のイス坐禅
もう三十一回になります。
二年前の六月から始めたのでした。
来年でいよいよ満三年を迎えることになります。
今まで三十回にわたっていろいろと工夫し努力を重ねてきました。
そのおかげで私自身が一番多くの気づきをいただいたと感謝しています。
講演をするときに、一番の聴衆は自分自身だと言いますが、イス坐禅の指導も、一番自分自身が調うのであります。
おそらく三十一回すべてに参加しているというのは、私自身でありましょう。
最近のイス坐禅の会では、前回のイス坐禅のあとのアンケートに基づいてその感想を紹介したり質問に答えたりしています。
はじめにこんな感想を紹介しました。
「法界定印にタオルで包んだみかんを置いて、その感覚を味わうのはとても良かったです。
家に帰ってきても、その感覚で少し座るとお腹の辺りに意識がいって、心がとても安定します。
印で呼吸を感じてる感覚になります。」
とあります。
また同じく
「みかんをタオルで包んで持つ(手のひらに心をのせる)、頭の上にみかんをのせる(頭蓋骨を頚椎の上にのせる)感覚は姿勢を整えるガイドになるとともに、不思議な安心感でもありました。
自宅に戻って子どもに同様のことを伝えて試したところ、心地よさを共感したようで、その後も時折、タオルに包んだみかんを、目をつぶってそっと持っております。」
というのもありました。
みなさんに蜜柑を差し上げて、それをタオルでくるんで、両手でそっと持つというのを行ったのでした。
あるいは頭の上に乗せてみたりしたのでした。
これがとても好評だったことが分かります。
特に子供は正直ですから、タオルにくるんで蜜柑を持つとこころが落ち着くのでしょう。
このようなあり方が理想だと思います。
これがいいからやりなさいと押しつけるのではなくて、心地よくて自然とそうしたくなるようなあり方です。
それが無理のない自然な落ち着きとなります。
「質問です。椅子の座り方についてですが、私は浅く座ったほうが座りやすいのですが、周りの方をみると私より深くすわっていらっしゃるようです。椅子に座る時の深さの目安はあるのでしょうか。」
という質問もありました。
これについては以前にも「イス坐禅に教科書があるわけではありません。
教科書は自分自身です」と申し上げたことがありました。
まわりの人を参考にするよりも、自分が落ち着くところが一番良いのです。
どだいまず足の長さが違います。
太さも違います。
どこにどう坐ったらいいのかと工夫してみることが大事なのです。
人から教えられたところに強制するのではありません。
もっと言えば同じ人でも、その時の体の調子によって、浅くすると良いとき、深くすると良いときもあろうかと思うのです。
大事なのは足が床にしっかりと着いていることです。
その足で床を踏みしめて立ち上がる姿勢がイスに坐る姿勢なのです。
しかし、たとえ足が床に着かなくても、一番自分の体の下の部分が何かに着いているはずなのです。
人間の体が宙に浮いていることはあり得ません。
足が床に着かなくても太ももの裏側がイスの座面に着いているはずです。
そこを足の裏だと思ってしっかり踏みしめるのです。
そうしますと腰が立ってきます。
それからイス坐禅をしていると背中が痛くなるという方がいらっしゃったので、今回はそれを解消するために背中をほぐし、背中で息をすることを実習してみました。
もっとも背中の痛みといっても人によって様々ですし、原因もいろいろあります。
ただもしも腰が反ってしまい、腰が張って、そこから背中全体がこわばって痛くなっているようでしたら、反り腰が原因となります。
一所懸命にしっかり坐ろう、良い姿勢を作ろうとすると、ついつい胸を張って腰を反らせてしまうことが多くあります。
これはきれいな姿勢に見えます。
それから腰や背中への多少の負担は、がんばったのだという感覚を生み出します。
それも悪くはありませんが、長続きはしません。
凝るというのは動かないので血流が滞るわけで、まずよく動かしほぐすことを時間をかけて丹念に行ってみました。
息を吸うにしてもお腹を膨らませるというと、どうしてもお腹を前に出すばかりになってしまいます。
または肺に空気を入れるにしても肺を前側にだけ膨らませることになりがちです。
しかし背面にも横側にも広げたいのです。
ほんのわずかな広がりであり、かすかな動きですが、それでも静止しているのとは全く異なります。
そして大事なのはみぞおちを落とすことです。
みぞおちのあたりを入念にほぐしました。
みぞおちの裏にあたる背骨はゆるやかに後ろの方が曲がっているのです。
しかし仙骨の上の腰椎五番あたりは前傾させるのです。
これが腰椎三番を前に出すようにすると腰が反ってしまうのです。
腰椎三番の位置というとだいたいおへその高さで手を背中にもっていくと分かります。
おへそから指の幅四本分したあたりが丹田です。
その丹田の高さで背中に手をまわすとだいたい腰椎五番あたりになります。
ここを前に傾けるようにします。
これが自然にできるのはイスからの立ち上がりです。
イスに坐って手を前から上に伸ばしながら立ち上がる動きを何度も行いました。
その立ち上がる時の腰の角度がいいのです。
そして肺が風船を膨らませるように全体に広がるのがいいのです。
さてこれは皆さんに伝わったかなと不安に思っていましたが、いつも参加してくれているホトカミの吉田亮さんが、肺が風船のように膨らみましたと言ってくれました。
吉田さんはその感想をnoteにも書いてくれていました。
何人かの方が、腰が楽になりましたと言ってくれました。
まず今回も私自身がよく調って坐ることができました。
参加してくださる皆さんには感謝であります。
横田南嶺