寝る禅とイス坐禅
研究所の所長に就任してから、この運営にも携わっています。
もともと所長という役職は、象徴的な立場で、実務に携わらなくていいのですが、私の場合は業務執行理事も兼ねていますので、いろんな企画運営にも関わっているのです。
まず研究所では、先日円福寺さまで開催された禅の旅のアンケートを拝見しました。
これは皆様にとても喜んでもらえたことがよく伝わってくる内容でした。
研究所の方々も喜んでいました。
やはり自分たちの企画が多くの方に喜んでもらえるのは、こちらも嬉しくなり、やりがいを感じるものであります。
そのほかにも今の出版の状況などの報告をいただいて、今後の方針を決めたのでした。
来年の理事会などの日程や、これまた今年好評だった春季の講座や夏季講座などの日程などもおおよそ決めました。
禅の旅も皆さんに喜んでもらえるというので、来年もどこで開催するかいくつかの候補のお寺を相談しておきました。
理事長の松竹老師も毎回ご参加くださり、ご意見を賜っています。
松竹老師も私もその明くる日に、妙心寺さまで僧堂の老師の歴住開堂という式典に参列することになっていました。
お互いにその日に合わせて運営委員会を開いたのでした。
私は市内のホテルに泊まり、翌朝はまた西本願寺様にお参りしました。
今回もどこかの団体の方々が見えていて、とても大勢の方がお参りになっていました。
阿弥陀堂と御影堂の片隅に坐って正信偈を唱え、お念仏を唱えていました。
正信偈を読みながら、高校生の頃親鸞聖人の『教行信証』を分からぬなりに、読んでいたことを思い出しました。
正信偈は『教行信証』の中にある偈文であります。
高校の頃、よく金子大栄先生の本を学んでいたことを思い出したりしていました。
今正信偈を読んでいてもすばらしい漢文であり、信心の肝要をよく説いていると感じいります。
能発一念喜愛心
不断煩悩得涅槃
よく一念喜愛の心を発すれば
煩悩を断ぜずして涅槃を得るなり
という一節があります。
「煩悩を断ぜずして涅槃を得る 」というのは大乗仏教の極致であります。
煩悩障眼雖不見
大悲無倦常照我
煩悩、眼を障へて見たてまつらずといへども
大悲、倦むことなくしてつねにわれを照らしたまう。
という一節も大事な教えであります。
私たちは煩悩に眼を覆われてしまっていて見えないのだけれども阿弥陀様の大悲は常に私たちを照らしてくださっているというのです。
布教師さまのご法話もとてもよく透るお声で分かりやすく日常の暮らしの中でお慈悲の心を説いてくださっていました。
そうして午前中は妙心寺の儀式に参列して帰りました。
明くる日は午前中に円覚寺で第三回寝る禅の講座、午後からは築地本願寺の銀座サロンでイス坐禅の講座を開いていました。
かつては京都に行くと次の日に疲れが残ったりしたものですが、この頃は京都の往復もすっかり体が慣れてしまったようです。
それに行う講座が寝る禅やイス坐禅なので、行っている自分自身が身心ともに調って疲れもとれてゆくのですから有り難いことです。
十一月は、自分でも驚くほどたくさんの予定が入っています。
それでもどうにか元気に過ごさせてもらっているのは、イス坐禅や寝る禅のおかげのようにも感じます。
整体などでも施術している人が、その人を治そうとするその働きによって、自分をも整えられていくというのを聞いたことがありますが、そのようなものかもしれません。
寝る禅は今回も方丈に一杯の方がお見えくださいました。
少し肌寒く感じましたので、エアコンをつけての開催としました。
まず横になる前に少し体を温める体操を行ってから始めました。
寝る禅は骨盤の矯正と呼吸を深くする為のものでもあります。
横になって首から順にほぐしてゆきます。
首をほぐし肩をほぐして、それからテニスボールを使って背中をほぐしました。
そのあと、おなじようにテニスボールを使ってお腹をほぐしてから足の運動をしました。
足に力を入れながらの呼吸を行ってゆきます。
これが白隠禅師の『夜船閑話』をもとにして私が独自に行っている方法です。
大事なことは腰をそらさないことです。
たえず何度も腰をそらさないように、注意をして行ってゆきました。
すると、参加された方が終わったあとで初めて足の先まで気が通って充実して足で大地を踏む感覚がはっきりしましたと言ってくださいました。
これが大事なところです。
横になると腰が反っているかどうかがよく分かるのです。
一通りを終えてゆっくり立ち上がると皆さんの姿勢がとても美しくなっています。
終わったあとには
「最後の身体を一つずつゆっくり畳に下ろしていく動きは、内と外の境目がゆっくりぼんやり消えていく感じがとても心地よく、完全に脱力することで逆に力がみなぎってきました、やはりこの感覚は寝る禅ならではだと思いました。」
「最後にみんなで立ち上がった時の雰囲気は、厳粛さと輝きに満ちていて、言葉にし難いものがありました。」
などという有り難い感想をいただきました。
そのあとお昼をいただいてイス坐禅に向かいました。
築地本願寺の銀座サロンの講座に出るのはこれで三回目となります。
残念ながらこの十二月に銀座サロンは終わりになるそうです。
こちらも九十分かけて姿勢と呼吸とがとても調いました。
皆さんに指導していくうちに自分の姿勢も変わっていくのが感じられるのです。
そして皆さんのイスに坐った姿勢が美しくなっていくので、これまた有り難いものであります。
そのあと、銀座サロンに呼んでいただいた御礼に築地本願寺さまにお参りさせてもらってから鎌倉に戻ったのでした。
その前の日の朝には西本願寺にお参りして、その次の日は築地本願寺にお参りできたのでした。
阿弥陀様の大悲に包まれている思いでありました。
横田南嶺