足裏と体幹をつなぐ
午前中は井上欣也さんにお越しいただいて、ご指導していただいていました。
こちらは個人指導をいただいています。
毎月一回のことですが、井上さんに教わることは楽しいのであります。
午後からは西園美彌先生にお越しいただいて、足裏、足指について学ばせてもらいました。
これは井上さんが西園先生の講座に出てみたいというご希望がありましたので、その午前中にお越しいただいて勉強させてもらうようにしたのでした。
井上さんには、乗ると依りかかるの違いを学びました。
これは実際に身体を使って感じるのであります。
乗るというのは、重心を乗せるような感覚であります。
依りかかるというのは力で押し込む感じであります。
力で依りかかるというのは強いように思いますが、意外に抵抗されやすいのです。
重心を乗せられるというのは、全く抵抗できません。
また重心を移動させて歩くということも教わりました。
これが実に面白いように軽快に歩けるのであります。
踵から着地させるような歩き方とは別のものであります。
忍者の小走りとまではゆきませんが、どこまですいすいと進んで行けるように感じたのでした。
また独自の体幹を鍛える方法を学んだりしていました。
乗ると依りかかるの違いを学んでいて、臨済禅師の言葉を思い出したのです。
「無依の道人、境に乗じて出で来たる」という言葉があるのです。
「無依」という言葉を臨済禅師はよく使われます。
何物にも依りかからないということであります。
茨木のり子さんの「倚りかからず」という詩を思い出します。
もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ
という詩です。
乗るというのは『広辞苑』によれば、
「ある事物が他のものの上に位置を取る意」を言います。
「位置を移動するために動く物の上に位置を変える」という解説もあります。
「無依の道人、境に乗じて出で来たる」を岩波文庫の『臨済録』では、
「無依の道人こそが、境をあやつって立ち現れるのだ」と訳されています。
境は、外境であります。
また重心を移動させて歩くというのはとてもよく分かったのでした。
そして午後から井上さんと共に西園先生をお迎えに駅まで行きました。
駅で西園先生をお迎えすると、下駄履きなのがすぐ目にとまりました。
下駄なのですねと申し上げると、しばし下駄についてお話くださいました。
重心を前にして、重心を移動させるように歩くのだと仰ったので、驚いたのでした。
その歩き方は、つい先ほどまで井上さんに教わっていたことでした。
西園先生は下駄をはくことによって、自ずと体感されているのであります。
午後からの講座は、足で床を押すということを丁寧に行ったのでした。
私たちが何気なく立ったり歩いたりするとき、実は足裏の感覚が体全体の動きに大きく影響しています。
今回講座では、足首と足裏を調えることで体幹が安定し、全身の動きが軽やかになるということを実感させてもらいました。
立ったとき、足の指先までしっかり床に触れているか、五本の指が均等に地面を感じられているか、それを確認するだけで、体の安定感が変わってくるのです。
西園先生は、足裏に紙一枚を敷いているような感覚だと教えてくださいました。
重さをかけても紙がつぶれないように、ふわっと床を踏むというのです。
そう言われてもすぐに納得できるものではありませんが、三時間の講習でかなり感じられるようになるのでした。
MP関節という足の指の付け根の関節を意識して動かすことを繰り返す実習をしました。
この足のMP関節から曲げるのが大事なのですが、難しいのであります。
多くの人は足指の第二関節ばかりを曲げてしまいます。
それでは足首や股関節を固めてしまうのです。
MP関節から曲げて床を押すと、足首が自由になり、体全体が軽く連動します。
MP関節から曲げるというのを何度も行いましのたので、とても完全ではありませんが、私も今回手がかりをつかめたと思いました。
手で例えるなら、指先だけで物をつかむと手首が硬くなるのに似ていると西園先生は、手の動きで説明してくれました。
手でもMP関節から動かすと、手首や腕までがしなやかにつながるのだと、しなやかに手を動かして見せてくださいました。
それと同じことが足にも起こるというのです。
それから足首を曲げたり伸ばしたりを繰り返し教わりました。
足首を伸ばして指に体重をかけます。
そして足首を曲げて踵で床を押すようにします。
これは今まで何度も何度も行ってきて、十分出来ていると思っていましたが、まだまだ足りなかったと学びました、
これを実際に丁寧に行うとかかとで床を押すという感覚がはっきりします。
そうして立つと地面をしっかり踏んで立つことが実感できました。
そのようにして足裏の感覚が調うと、大腰筋など体幹の奥深くの筋肉が自然に働き始めるのです。
前後開脚や両足を橫に広げる開脚をやってみると、股関節の可動域がずいぶん広がるのです。
これは修行僧達も実感してくれていました。
ある修行僧などは身体が硬かったのですが、開脚しての前屈がかなり出来るようになって、自分でも驚いているようでした。
テニスボールを坐骨の内側にあててほぐすということも実習しました。
これで、お尻や骨盤の内側が柔らかくなります。
それによって、足裏の感覚も蘇ります。
骨盤底筋は丹田の感覚とつながっているというのです。
仰向けになって膝を立てて、仙骨を床に押しつけるようにして丹田を充実させる方法はよくわかりました。
そうしますとお腹が自然に膨らみます。
そのまま立ち上がると重心が下がって落ち着くのを感じることができます。
そうしていろんな動きをしながら、何度もMP関節を使って押すことを繰り返していると、足裏で床をふわっとつかむ感覚が得られるようになりました。
足裏の五本の指で床を感じ、MP関節から曲げ、かかとで押す、文字にしてみれば単純なのですが、実際に行うとなかなか難しく汗を流しました。
骨盤底筋を緩め、脇の下をふわっと開くということも学びました。
身体の中心に芯が通るのです。
修行僧達の姿勢もよくなっているのが分かります。
そうすると自然とよい表情に変わっているのです。
午前中に井上さんに教わったことと通じることも多く、一日身体について学んだのでありました。
藤田一照さんもお見えになって一緒に学びました。
有り難い一日でありました。
横田南嶺