はじめ塾の合宿 – 其の二 –
ある日のこと、良寛さんは子どもたちに誘われて、かくれんぼを始めました。
良寛さんは、ようやく見つけた藁小屋に入り、藁をかぶってうずくまりました。
子どもたちは、みんなで良寛さんを探したのですが見つからず、夕方になったので、みんなわが家に帰ってしまいました。
村の人がようやく良寛さんを見つけて、何をしているのかと聞きました。
「そんな大きな声を出すと、子どもらに見つかる。」と言いました。
良寛さんが子どもたちとかくれんぼをしていたのを知った村人は、子供たちはもうとっくに帰ってしまったと言ったのでした。
良寛さんは、空に浮かぶお月様に、子どもたちの幸せを祈りながら、山の庵に帰って行ったという話であります。
良寛さんの無心の姿が思い浮かびます。
はじめ塾の合宿でかくれんぼをしましたが、そんな無心というよりも真剣そのものでありました。
建物の中に隠れている四十数名の子供たちを私たちが探すのです。
探す時間を決めてほしいと言われて、何の気なしに二十分くらいかと言うと、子供たちは長いというのです。
五分にして欲しいというのでしたが、十分にしてもらいました。
五分と言われたのが、あとになって分かりました。
そんなに長い時間いられないようなところに息を潜めているのです。
この息を潜めるということを、かくれんぼで学ぶのだというのでした。
午前中の坐禅では、座骨を意識してもらうためにテニスボールを持っていって、座骨の際を刺激してもらいました。
それにタオルも用いました。
テニスボールを配ると、なにも言わずとも子供たちはテニスボールを使い始めます。
天井に向かって投げて受けてみたり、何に使うのかと、首をマッサージする子もいました。
膝の裏あたりにあてて気持ちいいと言う子もいました。
テニスボールをタオルでくるんで、グルグル回して遊ぶ子もいました。
グルグル回しながら、時に背中にボールを当てて刺激を楽しんだりしています。
私もそんな子供たちを見ながら、いろんな使い方があるのだと思いました。
お昼の支度にしても自然と始まりました。
台所から出来たおかずが運ばれます。
それぞれお皿に盛り付けたり、机に運んだり、自然と役割分担が出来ているようでした。
ご飯を盛り付けたり、運んだり、自然と五十名ほどの食事が広間に用意されるのです。
私もその中にとけ込んで盛り付けていました。
修行道場でもそうですが、竈で炊いたご飯は美味しいものです。
午後になって、私はもと大相撲の力士だった方とお話させてもらっていました。
お相撲をとる時に、塵手水という作法があります。
蹲踞の姿勢で揉み手をしてから拍手を打ち、両手を広げた後、掌をかえすのです。
相撲が野外で行われていた頃に、地面のちり草をちぎって手を清めたことに由来すると教わったことがあります。
この揉み手をする時には、胸の前で右手上、左手上の順に両手を擦り合わせるのです。
これによって身体が調うということを私も教わったことがあります。
手を逆の順番にするとうまくゆかないのです。
そのことを元力士の方が教えてくださいました。
修行僧たちも交えて興味深く習っていました。
更に四股の踏み方も教わっていました。
そうしたら、自然とお相撲をとろうということになりました。
広い座敷の一角に、お相撲をとれるほどの板の間があるのです。
そこでお相撲をとっていました。
私も久しぶりに元力士の方の胸を借りてお相撲をとりました。
すると子供たちも自然とまわりに集まって来て、しばしお相撲の時間となりました。
私も子供とお相撲をとりました。
負けてあげればよかったのですが、小学生ながら力も強かったので、全力で押しだしてしまいました。
そうしてしばらくお相撲をとったあと、午後から寝る禅を行ってみました。
合宿には大人の方もいらっしゃいます。
みなで広間で橫になって寝る禅を行ったのでした。
タオルやテニスボールを用意しました。
テニスボールでは腰や背中、お腹のマッサージに使いました。
ところがよこになるや、わずか三分も経たぬ間に、寝息が聞こえます。
多くのお子さんは気持ち良さそうに寝入ってしまいました。
あらかじめ寝る禅では寝てもいいです、起こさないようにと言っておきましたので、寝たままにしておきました。
一通りの寝る禅を小一時間かけて行って、立ち上がったのですが、まだ気持ち良さそうに寝ている子が何人もいるのでした。
その姿がまた無心そのものなのです。
盤珪禅師は、寝れば仏心で寝るのだと仰せになっていますが、子供が無心で寝る姿は、まさに仏心そのものであります。
これこそが本当の「寝る禅」だと思いました。
寝る禅のあと、子供たちが数名で能を披露してくださいました。
これがまた見事なものです。
能の先生も月に数回お見えになっていて習っているそうなのです。
女の子が、扇子一本を持って見事に舞うのです。
そのよこに十名ほどの子供が板の間に正座して謡をみごとになさっていました。
すべて暗記しているのです。
感激しました。
御礼に何かをしようと思いましたが、思い浮かぶのはお経くらしかなく、私たちは修行僧と共に般若心経を読誦させてもらいました。
そうこうしているともう夕方になりましたので、おいとましました。
午後にはありがたいことに雨もあがりました。
車で帰るのですが、大勢の子供たちはどこまでも追いかけてきて手を振ってくれます。
こんな光景を今見ることはありません。
これまた感激であります。
和田先生には来年も是非とお声をかけていただきました。
こちらこそ来年も是非と思っています。
修行僧たちにもとてもよい刺激になったと思います。
お手伝いされている方の中に、昨年おうかがいしたのがご縁になって、私の毎日のYouTubeラジオ管長日記を聞いているという方がいらっしゃいました。
毎日の通勤の電車の中で聞いているそうです。
満員の電車で今まで苦痛でしたが、私のYouTubeラジオを聞いていると穏やかな気持ちで通勤できると感謝してくださいました。
これまた有り難いご縁であります。
横田南嶺