初のラジオ生出演
私は元旦からずっと仕事をしているようなものですが、外の仕事は五日が初めでした。
五日の日曜日の午前中に、鎌倉FMというラジオの生放送に出演していました。
午前十時から正午までの二時間であります。
これは昨年村上信夫さんから依頼されたものです。
実のところ、管長に就任して十五年になりますが、鎌倉で話をしたり活動することはほとんどありませんでした。
頼まれるのは専ら遠くの方であります。
法話や講演といっても遠くに出かけて行ってきました。
鎌倉で活動することはほとんどないのです。
地元でも何かできたらという思いがありました。
そこで最近地元の鎌倉シャツさんに協力したりしています。
また円覚寺派の浄智寺の和尚が鎌倉で熱心に活動されていて、ただいま鎌倉FMの社長もおつとめであります。
そんな鎌倉への思いもありましたところのお話だったので、ラジオの生放送とは初めてのことですが、どうにかなるかと思ってお引き受けしたのでした。
これが月に一回、一年続く予定だそうです。
鎌倉FMには一度出たことがありました。
スタジオにうかがうのは今回二度目であります。
正月五日しかも日曜日なので車は混雑すると思い、鎌倉駅からてくてく歩いて行きました。
二キロ弱の距離だと思います。
お天気もよくて気持ちのいい散歩となりました。
由比ヶ浜通りを歩いて行きましたが、ずいぶんと私の知らない新しいお店が出来ているので驚いていました。
昔からのお店が残っているとホッとします。
かなり早めにスタジオに着きましたが、村上さんは既にお見えになっていました。
あらかじめどのような内容にするのかやりとりをしていますので、打ち合わせは簡単にすませることができます。
こちらも自分の話すところは原稿を用意していますので、安心であります。
ただ生放送ですので、途中でどうなるのか予測がつきません。
ラジオですので音楽がなって放送が始まりました。
ごきげんラジオという題となっています。
私のことの紹介があって、私も一言「おめでとうございます。どうぞよろしくお願いします」と申し上げました。
そこで、まずはじめに言われましたことが、「南嶺さんと呼んでいいですか」ということでした。
これはどう呼んだらいいのかという相談というより、「南嶺さん」とさん付けにしますがよろしいですねという確認の問いであります。
私は何も気にするものではありませんので、どうぞと申し上げました。
実際私などをなんと呼んだらいいですかというのはよく聞かれます。
これは文化の違いで呼び方にもいろいろあると思います。
私どもの世界では、中国の伝統をもとに東洋の文化に則って暮らしていますので、実名を呼ぶのを避ける習慣があります。
相手の実の名を直接に呼ぶのは失礼にあたるという考えであります。
もともと中国にあった考えであります。
実の名を呼んでいいのは親や師匠に限るというものです。
ですからあざなを呼んだり、建物や場所、地位の名称で呼んだりするものです。
今の日本で一番それが残っているのが御皇室であります。
天皇陛下のお名前をわれわれが呼ぶことはありません。
御皇室は宮様とお呼びします。
秋篠宮様というのは、秋篠の宮にお住まいの方ということです。
そこで私ども管長や師家は、室号を持ちます。
何々室とか何々軒という建物の名前であります。
私でしたら青松軒という室号を持っていますので、青松軒老師と呼ぶのが寺では正式な呼び方です。
建物や場所で呼ぶというのは、芸人さんの世界でも直接名前を呼ばずに黒門町の師匠とか稲荷町のと呼んだりするのです。
それから敬称で呼ぶことも多いのです。
私ですと「管長」とか「老師」とか或いは管長につける敬称で「猊下」と呼ばれています。
このように実の名を避けてお住まいの名か、役職の名で呼ぶのが通例であります。
これが東洋の伝統の世界であります。
戦後は東洋的な伝統よりもアメリカの文化を重んじる傾向になっていますので、アメリカではファーストネームで呼ぶことが親愛を表すということからきていると察します。
ここでは東洋の伝統ではなく、アメリカ式で行きますよと言うことだと受け止めておきました。
なんと呼ばれようとこちらの本体は変わりがありませんので私は一向に気にしないのであります。
ラジオの放送が始まって今年が百年になると初めにうかがいました。
今年はいろんな面で節目に当たる年だと感じています。
なんといっても戦後八十年であります。
阪神大震災から三十年であります。
ラジオ百年という話題から、私にラジオに対する思いを聞かれました。
ラジオというと最近は聞くこともありませんが、子供の頃はよくきいていたのです。
テレビはまだ一家に一台しかない頃で、チャネンルを回すのは父親の権限だった時代ですので、子供が自由に聞けたのはラジオでした。
ラジオにイヤホンをつけて聞いていました。
どんなラジオを聞いていましたかたと聞かれて、即答したのが「ラジオの宗教の時間です」という一言でした。
これには村上さんも驚いていました。
しかし中学から高校の頃、一番楽しみだったのがNHK第二放送ラジオ宗教の時間でした。
これで中学生の頃に天台小止観を学び、法句経を学び、松原泰道先生のお話も聞いたのです。
私も懐かしく思い起こしました。
そのあとは合間合間に音楽を流しながら、年末年始の様子を聞かれて答えていました。
そうして私の担当として十五分の法話をしました。
聞き手は村上さんお一人であります。
真摯に頷きながら聞いてくださるのでとても話やすく終えました。
また音楽やリスナーさんからの質問などにも答えながら、禅語の解説を十五分行いました。
終わりの方で坂村真民先生の詩を朗読していました。
私の出番は十五分の法話と禅語の解説、真民詩の朗読なのです。
あとは村上さんにお任せして二時間が終わりました。
今はラジオの機械がなくてもインターネットでも聞けるようであります。
来週の日曜日に再放送をしてくださるそうで、一月はもう一度十九日に生放送の予定であります。
今年新たな取り組みですが、さてどうなることやら。
横田南嶺