Zen2.0
たとえば、「2.0」などというのも何を意味しているのか、いまだによく分らないのであります。
どうもこの「2.0」というのは、「第2世代」とか「バージョン2」のような意味らしく、コンピューターのソフトウエアで使われるらしいのであります。
バージョンアップなどというのもよく理解できない言葉であります。
『広辞苑』で調べてみると、
「バージョン」は「①書物・音楽などで、一つの作品に複数の形がある場合のその一つ。版。」という意味と、「②コンピューターのソフトウェアなどで、改訂版の時系列上の順番を表すもの」と書かれていて、
「バージョンアップ」は、「既存のものを改訂・改良すること」
というように書かれています。
改訂版とか、改良したものと言われれば分りやすいものです。
ところが、この「2.0」に「Zen」をくっつけて、「Zen2.0」というのがあるのです。
「Zen」の改訂版ということでありましょうか。
どうもよく分らない言葉であります。
この「Zen2.0」というのが、どういうものか、ホームページにある言葉を参照してみましょう。
「Zen2.0とは、鎌倉を舞台に開催される禅とマインドフルネスの国際カンファレンス。
北鎌倉の鎌倉五山第1位の建長寺において、2017年に初開催され、以降年に一度開催し今年で7回目となります。
毎年国内外のマインドフルネス界から素晴らしい豪華ゲストを招いて、禅の心、瞑想やマインドフルネスを通じて、心のあり方を学びます。」
というものです。
私もその2017年に開催された時にお招きいただいたのでした。
その時に、スティーヴン・マーフィ重松先生と藤田一照さんと三人で鼎談をしたのでした。
私は、まだその頃は、2.0というのがよく分らずに、視力のことかと言ってとぼけていたのでした。
その後も何度もお声をかけていただいているのですが、だいたい、こちらの予定が入っていて、参加できずにいました。
ただ、いつもその録画を送っていただいて、いろんな方のお話を勉強させてもらっていました。
そんなご縁で、尺八の工藤煉山さんと対談したり、パーマカルチャーのソーヤー海さんと対談させてもらったりしてきました。
これらの対談は、Zen2.0の企画でありました。
そこで今年のZen2.0が、九月二日と三日に行われることになって、私のその二日目の三日に参加させてもらうことになりました。
いつもこのZen2.0の共同代表の三木康司さんと宍戸幹央とが、毎月円覚寺で行っている布薩によく参加してくれているのです。
円覚寺の布薩は、一般には公開していないもので、修行僧と、近在の和尚さんと、数名の方だけが参加しているものです。
一時間ほど、懺悔の百礼拝を行い、戒の条文を読んで自ら反省する儀式であります。
冬は、百礼拝していると体が温まりますが、夏は汗をかいてたいへんですが、おわったあとはなんともすがすがしいものであります。
そして終わった後に、三木さんや宍戸さんをまじえてお茶を飲みながら懇談しています。
そんなことをいつも行っている中で、今年のZen2.0の話になって、たまたま二日目の九月三日の予定が空いていましたので、参加しようということになったのでした。
せっかくですから、皆さんと布薩を体験してみようと思ったのです。
元来「Zen2.0」というからには、バージョンアップ、既存のものから改訂改良されていないといけないのだろうと思いますが、古くも古く、お釈迦様の時から行われている儀式なのであります。
全く「Zen2.0」からは退行しているのですが、どうにかお許しいただいたようなのであります。
もっともこの布薩の儀式を一般の方もまじえて行うといいなと思っていたのであります。
百回の礼拝はたいへんなので、二十回くらいにして、呼吸に合わせて丁寧に礼拝して、戒を現代語で読み合わせて各自反省するように考えています。
そろそろコロナ禍も一段落して、始めてもいいかと思っていたところの企画なのであります。
それが、円覚寺でなくて、建長寺で行うというのも不思議なご縁でありますが、建長寺の五代目の住持が円覚寺の開山となっていますので、こんなご縁も許されるだろうと思っています。
私が九月三日に布薩を行うのは、建長寺の得月樓というところです。
得月樓には円覚寺の開山仏光国師のいらっしゃったところなのでご縁を感じます。
しかもその九月三日はなんと仏光国師のご命日なのであります。
円覚寺では、いつの頃からか、一月遅れの十月三日に開山忌を務めていますが、本当の命日は九月三日なのであります。
かくして「Zen2.0」ならぬ、古い教えを実践させてもらうことになっているのであります。
今年の「Zen2.0」にも二日間にわたって多くの方が登壇されます。
私が存じ上げている方も多く、藤田一照さんや前野隆司先生、尺八の工藤煉山さんや、ZenEatingのももえさんがいらっしゃいます。
またスティーヴン・マーフィ重松先生、ジョアン・ハリファックス 老師は、オンラインでご参加されるとのことです。
また茂木健一郎先生も登壇されるということで注目されています。
今年のテーマは、「加速の時代に水のごとくある」ということになっています。
禅も達磨大師の頃からは、時を経てずいぶんと発展してきました。
日本の禅文化というと、茶道や枯山水の庭園などが思い浮かびますが、もともと中国にはなくて、日本独自に発展したものです。
今の時代にもまた新たな発展があるのだと思います。
なかなか私はそんな発展にはついてゆけないのですが、少しでも学ばせてもらえたら有り難いと思っています。
横田南嶺