三因仏性(さんいんぶっしょう)
三因仏性という言葉があります。
仏性という仏さまの心の三つの要素です。
三つとは、正因(しょういん)仏性、了因(りょういん)仏性、縁因(えんいん)仏性のことです。
少々難しい用語と思われるかもしれませんが、大切な教えであります。
わかりやすく説明すると、最初の「正因仏性」とは、本来私たちが生まれながらの具わっている仏さまの心のことを言います。
誰しもみな、穏やかな慈悲の心に満ちた仏さまの心、仏性を具えているのです。
このことは、お釈迦さま以来歴代の祖師方が厳しい修行の末に悟られたことなので間違いのないことです。
しかし、本来具わっていても、そのことを自覚しなければなりません。
次が「了因仏性」であって、本来具わっている仏さまの心を、様々な教えを学んで智慧によってその仏さまの心を照らしだすことです。
そのようにして、自覚し照らし出されてはじめて本来具わっている仏さまの心が明らかになります。
しかし、明らかになってよかったで終わってはなりません。
自覚した仏さまの心を実際にはたらかせてゆかねばなりません。
それが「縁因仏性」であって、実際に仏さまの心が発現する縁となる善行を積んでゆくのです。
まとめてみますと、本来具わっている仏さまの心(正因仏性)を、
様々な教えを学んで自覚し(了因仏性)、
そして自覚してあらわになった仏さまの心を善行を積んで発現してゆく(縁因仏性)ということになります。
『延命十句観音経』にある、「与仏有因」は、正因仏性にあたります。本来みな観音さまの心を具えていることを表します。
「与仏有縁」は、「了因仏性」とみてとれます。様々な教えに導かれて、本来具えている観音さまの心に気がつくのです。
「仏法僧縁」は、その気がついた仏さまの心を、仏法僧の三宝に帰依するというよき習慣、善行を通して、実際にはたらかせてゆくのです。
そうすると「常楽我浄」という悟りの世界が完成されるのです。
本来誰しも具わっているのが仏さまの心、観音さまの心です。それが教えを学んで気づくことができます。
そして実際に、身近な人たちに、観音さまの心を、優しい笑顔やあたたかい言葉を通して現してゆくのです。
『延命十句観音経』は短い経典なのですが、白隠禅師が仏教の教えが凝縮されていると言われているように、深い教えが込められています。
そんな意味を味わって読むと一層よろしいかと思います。
横田南嶺