真向法 – 童顔・童体・童心 –
本の広告のところに私の名前が出ています。
なにかと思ってみてみると、
『若返り 一日3分の真向法』(さくら舎)という本の紹介でした。
この本のオビに、「安岡正篤氏や、吉行和子氏、若尾文子氏ら多くの著名人が真向法でエネルギーを充填」と書かれていて、さらに「円覚寺 横田南嶺老師が推薦 「元気、長命の秘訣です」」と書かれています。
そこで本の広告に私の名前が出ていたのでした。
寺に帰ってみると、この本がすでに届いていました。
著者の佐藤康彦さんは、真向法協会の会長で、よく存じ上げています。
それに真向法は、学生の頃からですので、もう四十年ほど継続している体操であります。
ご縁が深いので、推薦をさせていただいたのでした。
オビに、安岡正篤先生の名前が出ていますように、安岡先生も実践されていたそうです。
真向法の創始者は長井津先生です。
そのご子息が長井洞先生です。
長井洞先生に『真向一途 亡父長井津の生涯』という本があります。
その本に安岡正篤先生が「序」を書いておられます。
昭和三十九年に書かれている文章です。
こんな言葉があります。
「人間の病氣なるものも、凡て身體の不和、身心の不和に外ならない。
しかもそれは日々夜々の問題である。
到底一服一箇の薬品や一時一箇の醫者に依って治せらるべきものではない。
人間はまづ根本的に己に返って、身體の不和・不調、身心の不和・不調から治してゆかねばならない。
學問や信仰のことはしばらく措いて、なるべく簡易自然で、何時何處ででも、他の力を仮らず、自分自身で行へるやうな都合のよい健康法は無いものか。
もし有れば、それこそ最も合理的なものに違ひないと久しく考へてゐたが、私はそれを長井津翁の真向法に発見した。
そして果せるかな、これが非常な效験のあるものであり、生理的心理的にも十分合理性のあることを多くの専門家によって段々解明されるのを確かめることができた。」
と書かれています。
安岡先生の格調高い序文であります。
さらに安岡先生は、
「人為の二字を一にすると、偽といふ字になる。
この字に二つの意義用法がある。
一は技と同義であり、他は即ち「うそ」「いつはり」である。
技巧は人欲と混じて往々虚偽となる。
これを眞實自然に復すれば、人工も天工となり、「神ながら」となって、生々進化する。
真向法を行ずると身心が確かに自然に復する。
自然に健康になる。
長井津翁は全く自然に復った人であった。
説くが如く健體康心の人であった。
真向法の成果を三童といって、童顔・童體・童心とするが、翁は全く三童真人であった。」
と書かれています。
真向法が実に自然にかなった体操であることが書かれています。
『若返り 一日3分の真向法』の「はじめに」に佐藤会長が、真向法が理想として目指すのは「赤ちゃんの姿」だと書かれています。
そして「真向法では、「健康」という言葉に「体」と「心」とを加え、「健體康心」と定義しています。
そして、その理想像を「赤ちゃん」に求めます。
赤ちゃんは、童顔と童心の持ち主でもあり、そこに、その姿(真向法では「童体」といいます)を加えた「三童」(童体・童顔・童心)の創造が真向法の目標。
「健康な体に健康な精神が宿る」といわれるように心身は一体です。その心身を整えるのに、瞑想のように精神からアプローチする方法もありますが、真向法は体からアプローチして、まずは童体(姿勢)を目指します。」
と書いてくださっています。
真向法は長井津先生が創始されたものです。
長井先生は、四十二歳の頃に、脳溢血で倒れ半身不随となってしまいました。
勝鬘寺というお寺のお生まれだった長井先生は、『勝鬘経』を丁寧に読まれました。
そのはじめに「頭面接足礼」という言葉を見つけます。
この言葉から、真向法の第一体操ができました。
坐って股関節から身体を折りたたむ運動を行ったのでした。
坐って足の裏を合わせて身体を前に倒していくのです。
不随だった左の足は床に着くどころか高く持ち上がったままだったといいます。
それからもうひとつ立ったままで腰を屈めて礼拝することから第二体操ができてゆきます。
長座して両脚を前に伸ばし、股関節から前屈する体操です。
第三体操や第四体操は後からできたといいます。
第三体操は開脚であります。
第四体操は割り座から身体を後ろに倒して、床に着けるのです。
この体操で長井先生は歩けるようにまで回復されたのでした。
はじめは「念仏体操」として第一体操と第二体操の礼拝を実践されていました。
『健體康心への道 真向法体操』という本に長井洞先生は、
「昭和八年ごろ、まず「念仏体操」と名づけました。楽座して合掌し「有り難うございます」と称えてお辞儀をする座拝と、立って合掌し「申しわけございません」と称え、腰を深く折ってお辞儀をする立拝の二つの動作を朝夕励行すると、健体康心になるというのです。」
と書かれています。
この真向法を、私も学生の頃、ある先輩から「長く坐禅をするには、この体操がいい」と教わって、実践してきました。
今も毎日続けているものです。
この体操で大事なのは股関節から身体を折りたたむことにあると思っています。
私なりに表現してみると、第一体操では股関節を開いてたたみます。
第二体操では股関節を閉じてたたみます。
この二つだけでも、骨盤と大腿骨の関係をかなり大きな範囲で動かすことになります。
股関節は「脚の付け根」であり、骨盤と大腿骨をつなぐ、身体の土台となる大切な関節でもあります。
股関節が十分に曲がらないと、前屈するときに骨盤を前に傾けにくく、腰椎を丸めることで補いやすくなります。
股関節が十分に動けば、大腿骨に対して骨盤を無理なく動かすことができ、坐ったときにも骨盤を起こしやすくなります。
骨盤が起きれば、その上にある背骨も無理なく立ちやすくなります。
これが「股関節をたたむ」ことの大きな意味です。
単なる柔軟体操だと思って、頭を床に着けようとばかりすると、かえって腰に負担をかけてしまいます。
大事なのは、感謝の気持ちと反省の心をもって礼拝する精神であり、身体の面では、腰を無理に丸めるのではなく、股関節から身体を折りたたむことであります。
これを丁寧に行うことが、まさに心身を調えることにつながり、「健體康心」となるのでしょう。
また『若返り 一日3分の真向法』(さくら舎)の本には今の時代に実践しやすいようにと、イスで行う真向法も書かれています。
私もイス坐禅に取り入れさせてもらおうと思っています。
横田南嶺