寝る禅は深い
一週間遅れて七月四日に開催しました。
大方丈で、三十名で行いました。
遠く関西から参加される方もいらっしゃいます。
毎回いろいろ工夫して行っていますが、今回もやはり末端からほぐすようにしました。
寝る禅は、まず上体の凝りをほぐしていくことから始まります。
末端からほぐすということでは、最近読んでいる福岡伸一先生の『動的平衡は利他に通じる』の本にある話からも納得させられたところです。
「人間は中心から、ヒトは周縁から」という章があります。
そこでははじめに建築家が設計をするときのことが書かれています。
建築家は、まず中心軸を決めてから細部を作っていくのです。
「これは建築家の習性という以上に、人間の思考法の常である」と福岡先生は書かれています。
更に福岡先生は「生命体は本来、地方分権的なシステムであり、軸は後になってからできる。
魚が出現する以前の生命体、たとえばミミズやナメクジのようなやわらかな生物には背骨がなかった。
細胞の集合体が押し合いへし合いしながら、前後左右から押し込められた襞(ひだ)として中心軸ができ、それが固くなって背骨になった。」と説かれているのです。
背骨や体軸、体幹という中心軸があって、それからまわりがついているように感じますが、中心はあとなのです。
そう考えてみると、やはり末端から調えていくのが理にかなっています。
手の指、手首、そして足首をほぐすことから始めました。
足首は柔らかいゴムのボールを踏んだり、足首で回したりしました。
これが実にいいので、足の裏に触れなくても足の裏の感覚が変わるのです。
足の裏で畳の目を感じられるように変化します。
足の裏がしっかりすると、上体の力が抜けるようになります。
そんな準備運動を三十分ほど行ってから仰臥の姿勢になります。
そのあとは、首、肩、腰回りと順番にボールを使いながらほぐしてゆきます。
そうして最後に呼吸法を行います。
このあたりはいつも同じようになっています。
三通りの呼吸を行います。
第一は、所謂腹式呼吸です。
お腹を膨らませながら息を吸い、吐きながらお腹を凹ませていくのです。
これを繰り返します。
その次は下腹にボールを置いて両手で押さえて、息を吸いながらお腹を膨らませて、ボールを押し上げるようにします。
そのあとお腹を膨らませたまま、息を吐き出します。
この時に両足に力を入れて、足の裏の向こうに壁があると思って、その壁を押すような気持ちで力を入れて息を吐きます。
これで下腹から足の裏までが充実します。
これを繰り返します。
そして最後は全身脱力して体が畳に沈み込むように身を委ねます。
それで一切のはからいをやめてただ自然と沸き起こる呼吸に任せます。
これが至福のひとときとなります。
毎回参加されている方からはありがたい感想をいただきました。
「今回の寝る禅は本当にあっという間でした。最初の手のほぐしで上半身が緩んで力みが抜け、ボールでの足裏ほぐしで下半身に力が漲り、最後にボールで背骨と骨盤の調整を行うという順番のおかげで、全身の余計な力みがないのに気力充実する状態が作れたと思います。
一番最後に立ってから坐る姿勢に戻ったとき、初めて「坐骨の上に坐る」経験ができた気がしました。
今までも坐れた気分になったことはありましたが、実際には坐れていなかったことがよくわかりました。」
というのです。
有り難い感想であります。
また「やはり、寝る禅は至極のととのい時間となりました。
寝る禅で力が抜けたあとの坐禅、いつもより心地よく座ることできました。」という感想もいただきました。
長い時間ジッと動かずに坐り続けるというのも良い修行になりますし、得るところも大いにあるのですが、寝る禅のように微かな動きで体をほぐし、凝りを取っていって、それと同時に自我意識も薄れていくという修行が寝る禅であります。
単なる脱力ではなく、これはこれで深いものがあるものです。
横田南嶺