イス坐禅の深まり
これほどよく充実して坐れることはない、これでじゅうぶんだと思います。
ところが、それが終わると同時に、また次のイス坐禅に向けての工夫が始まります。
あれこれといろいろと学び、感じたことを、どのように応用できるかを工夫して次のイス坐禅の会で実習します。
すると毎回、これ以上のものはもうないと感動しているのであります。
前回のイス坐禅の会も、これで三十四回目となりましたが、新たな感動でありました。
もちろんこと、あらかじめ自分で行ってみて、じゅうぶん効果があると試してから行うのですが、みんなで行うとより一層深まるのです。
かつて、イス坐禅の会で教わったことを、あとで自分の家で行おうとしても、どうしても会場で行ったような深まりを得られないということを言われたことがありました。
どのようにしたら家でも出来るようになるかという質問でありました。
しかし、これはやはりなんといっても会場で実際にみんなで行うからこそ体感できるものであります。
家で行いますと、どうしても人が来たり、電話が鳴ったりするかもという、いつ中断しなければならないかもしれない状況となります。
そういうところで行のうとはちがい、会場では、人も来ませんし、電話も鳴らないようにしますので、もう邪魔されることはないのです。
それだけに集中できます。
それからみんなで行いますので、独自の雰囲気が作られます。
場の力というのがあります。
それは「大衆の威神力」と申しますように、皆が心をひとつにして行うと、場の力が生まれます。
実際に家で一人で坐禅するより、本堂で皆と坐る方がより一層集中度が増すものです。
法要などで多くの人が一心に読経すると、一人でお経を読むより空気が変わります。
大勢が同じ願いをもって行っていると、その場に重みや清らかさが生まれるものです。
こういうことがあるものです。
私も前回は、自分でやっていてもかなり効果が大きいと感じてはいましたが、みんなで行うと数倍の効果でありました。
まず先日は目を休めること、耳をほぐすことから始めました。
目を休めるのは、身体を緩めることに大きな関連があります。
こちらは西園先生に教わったことの実習であります。
目を手で軽く押さえて、もう片方の手を後頭部に当てて、眼球が後頭部の方に引っ込むようにしてゆきます。
なかなか実感し難い場合はイメージでもいいと伝えました。
目は絶えず何かを見ようとして前に出ようとしていますが、それを後ろに引っ込めるように意識します。
それからその前の日に井上欣也さんに教わった耳ヨガを簡単に行ってみました。
これでもかなり緩みます。
それから次には手首をほぐすことを入念に行いました。
これは私が工夫したものです。
手は手の平の方向に曲がるのと、手の甲の方に反るという動きがあります。
それから横に親指の方向に曲がるのと、小指の方向に曲がる動きがあります。
親指の方向にはあまり曲がりません。
小指の方向にはよく曲がります。
その縦と横に動かすのを、はじめに自分で曲げて動かし、次にもう片方の手の力でそれぞれの方向に曲げて伸ばすと入念に行いました。
その動きを合わせると、回旋になります。
はじめ自分の力で回旋して、次にもう片方の手の力でゆっくり回旋させます。
最後のパタパタと縦と横、そして回すように振ります。
これもいろんなところに手を挙げたり、おろしたりして振ります。
そうしますとこれでもうかなり上半身が緩みます。
それから足の裏を感じるようにしました。
これは一度両方の足を地面からあげてしばらく堪えて、親指を地面につける、また足をあげて、小指の付け根を地面に着ける、そしてまた堪えて、踵を地面に付けると順番に行って足で地面を踏む感覚を手短に行いました。
これでもうじゅうぶんに上体がゆるんで、足がしっかり地面を踏んで、安定して坐れます。
それに更にもう一工夫を加えました。
それはその前の会の質問で「普段、椅子に坐る際に姿勢を意識しすぎるあまり、かえって反り腰になってしまい、腰に痛みを感じることがございます。
腰を反らせすぎないための具体的な工夫などがございましたら、ぜひご教示いただけますと幸いです。」というのがあったので、それにお答えするようにして工夫しました。
それはぶら下がりであります。
垂直というのは重力の方向だというのを再認識して重力の方向にぶら下がることを行ったのです。
これで余計な力みや腰が反ることが解消されます。
垂直をどう感じるか、重力をどう感じるかをあれこれ工夫してきたのです。
はじめの身体の体操でペットボトルを持って、下の方向に投げるようにして、重力を感じることを行っておきました。
岡田虎二郎先生が、脊梁骨をまっすぐにするのは大工のふりさげと同じ論理だと言っているのを思い出して、振り下げを示してみました。
実際にひもの下におもりを着けてぶら下げて垂直を示しました。
それから身体のいろんなところを使って重力の方向、垂直を感じてもらうようにしました。
各自タオルの両端をもってもらって垂直にしてもらいました。
上の拳が頭蓋骨で下が仙骨だとイメージしてもらいます。
そこで最後にカンペルラインを水平にして、両手で後頭部とアゴを支えるようにして、仙骨が重りになってただぶら下がるようにしました。
これで背骨が垂直になり、腰の力みが完全にとれます。
実にまっすぐに心地よく坐れるのであります。
そうして手を外しても垂直が失われることはありません。
五重塔の心柱が、垂直にぶら下がって、下は固定されていないのと同じなのです。
脱力していながら充実している感覚になれました。
足はしっかり地面を踏んで、上体の力は抜けて、垂直にぶら下がって、腰の力もとれて坐れたのです。
とても充実して坐れました。
二回目の坐禅ではまた新たな工夫をしてみました。
これは今までの坐禅の常識を覆すようなことであり、文章で書くだけでは誤解される畏れもありますので、書くことは避けます。
また皆で集まったときに行ってみたいと思います。
かくしてこのたびも今までで最も深く安らいだイス坐禅ができたのでした。
これも皆様のおかげであります。
横田南嶺