新発見のイス坐禅
かれこれもう二八回目となります。
毎回毎回私自身が楽しみであります。
今日はどんなことをやってみようか、皆さんがどのように感じれくれるか、楽しみにして行っています。
今回は、もう九割の方が経験者となっていました。
初めての方は一割のみです。
そうすると、イス坐禅が始まる前にもお互いに親しそうに話し合っている姿も見えます。
また初めての方は、やはりイスの背もたれに身体をあずけて、腰が立っていないのがよく分かります。
毎回参加されている方は、腰を立てて坐った方がいいと学んでいますので、よく坐れています。
心地よく坐っておられるのが伝わってきます。
毎回アンケートを書いていただくのですが、一日パソコンで仕事すると疲れ果ててしまうのが、身体も心も健やかになったと書いてくれていた方がいました。
東京駅の長い階段もすたすたと登ってしまうようになっているそうです。
「イス坐禅の効果は素晴らしいと実感しています」と書かれていました。
また夏に帰省するときに新幹線に乗られたそうですが、イス坐禅の要領で坐っていたので疲労することなく、降りた後も元気に過ごせたと書いてくれていました。
これこそ、イス坐禅で目指していることです。
姿勢や呼吸を変えることで、日常が変わるのです。
日常の暮らしが禅の暮らしになっていくのです。
移動が楽になったというのは皆さんが言ってくださいます。
これはもう私が開催しているイス坐禅に参加されなくても私の動画や本で学んでも実感できているようです。
有り難いことであります。
「なかには毎回新しい何かをお伝えしていますので、「いつも色々なツールと、老師様の温かなご指導で、たくさんの気づきやヒントを頂いております。
次回はどんな手で我々を導いて下さいますか?!」
というお言葉もありました。
さてさて毎回毎回新しいことがあるかなと自分でも思うのですが、何か湧き上がってくるものです。
今回も初めて試みたことがありました。
今回は四股を踏むことから始めてみました。
先日大岩戸さんに教わった音を出さない四股なので、会議室でも出来るのです。
いろんな方に学ぶので方法が増えます。
足を高くあげるのは難しいので、かつて一ノ矢さんに教わった四股の踏み方で行いました。
これはだれでもできます。
今回も二十代の青年から九〇歳の方までいろんな方が参加してくれています。
四股を踏んでいると体幹が調ってきます。
そうして首や肩をほぐすのはざっと行って、今回は呼吸を主に行ってみました。
坐禅の時の呼吸の調え方のヒントを教えてほしいという要望があったからです。
大まかに三つの呼吸法を順番に行いました。
はじめは腹式呼吸です。
下腹部に手を当てて、息を吐きながらお腹を凹ませていって、息を吸いながらお腹を膨らませるのです。
手の平を横隔膜に見立てて、お腹の前において息を吸いながら手を下げていって横隔膜が下に下がっていくようにして、息を吐きながら横隔膜があがってくるように意識してもらいました。
これだけでも十分に調います。
次に息を吐きながらお腹を凹ますのではなく、お腹が膨らんだ状態を保ったまま息を吐き出すようにしてみました。
これはなかなかやりにくいものです。
難しく感じた方も多いのではないかと察します。
しかし、これは坐禅では大事なのです。
お経をあげるときにも一定の音量で声を出し続けるには、息を吐きながらお腹を膨らませたままにして腹圧を保つようにします。
息を吸ってお腹を膨らませて、息を吐く時にも膨らませたままにするのです。
やりやすいようにと思って、はじめは息を吸って、少し止めて、それから吐くというのを試してみました。
止めている間にはお腹を膨らませたまま保つのです。
そして吐く時にお腹を凹ませます。
それを行ってから、息を吐く時にもお腹を膨らませたままで行ったのでした。
この腹圧を保つのを感じてもらうために頬を膨らませるようにしました。
これは内田真弘先生の『風船エクササイズ』で教わった方法です。
そのイス坐禅の前の日にも教わっていたのでした。
舌を上顎につけて、頬を膨らませて鼻で呼吸をします。
息を吸って頬もお腹も膨らませて吐くときにも膨らませたままにします。
腹圧がかかって体幹がしっかりとします。
ただこういうことは慣れないので、長く行うと疲れると思いました。
混乱された方もいらっしゃったと思います。
そこで最後は無意識の呼吸をしました。
これが大事なのです。
いろいろ難しい呼吸を行っていると、違和感を感じることもあります。
最後には総てを手放して無意識の呼吸をするのです。
いろんなことをして少々混乱しているからこそ、何もしない呼吸が有り難く感じられます。
本間生夫先生の『すべての不調は呼吸が原因 (幻冬舎新書) 』という本には、無意識に行われる呼吸について、
「この呼吸は脳の脳幹にある呼吸中枢によって制御されていて、「酸素を取り入れてエネルギーを生み出し、二酸化炭素を排出する」というエネルギー代謝を日々自動的に行ない続けています。
そして、二酸化炭素の調節システムは、この「無意識に行なわれる代謝性呼吸」のときのみに作動して、「意識して行なう随意呼吸」のときには作動しないメカニズムになつているのです。
ですから、深呼吸のような「意識して行なう呼吸」をずつと続けていると、二酸化炭素の調節システムが作動せず、かえって体内バランスを崩すことになってしまうわけです。」
と書かれています。
私たちが息苦しさを感じるのは二酸化炭素が多くなってしまいるからです。
息苦しさというのは血液中の二酸化炭素量と強く関連しているのです。
無意識の呼吸こそこの二酸化炭素を調整してくれるのです。
無意識の呼吸は誰に教わるものでもあります。
しかし見事にできているのです。
いろんな呼吸法を試したあとだからこそ、無意識の呼吸を有り難く味わえます。
それから新しく行ったのは、イスの上に手ぬぐいを敷いて、この手ぬぐいを大事なものだと思って、しわを寄せたりしないように、そっと坐ってみるという方法です。
ベタッと坐らないのです。
ほんの少し微かにお尻が持ち上がっているかのような気持ちで坐るのです。
ただこれだけですが、これで足の先までつながるのです。
いつでも立ち上がれるような姿勢になります。
血流が末端まで行き渡ります。
何人かの方が、とてもよかったと感想を伝えてくれました。
「手拭いを意識するだけで、無意識のうちに入っていた身体の力みや自我が薄くなり、結果としていつもより強く足裏で床を押して頭頂が上に伸びることができました。自分の軽さと力強さを同時に感じることができると、とても坐禅しやすくなりました。」
という感想もいただきました。
私自身とてもよく坐れました。
かくして毎回新発見のあるイス坐禅なのです。
横田南嶺