比叡山へ
比叡山宗教サミット三十八周年 世界平和祈りの集いに参列するためであります。
昨年は行事の都合で出られず、一昨年にお参りしたので、二年ぶりの比叡山となります。
比叡山宗教サミット三十八周年というのも感慨深いものがあります。
三十八年前というと昭和六十二年です。
1987年であります。
比叡山では開創千二百年の記念法要が行われました。
私が初めて比叡山にお参りしたのもその年でありました。
その年の春に京都の建仁寺に修行に行ったのでした。
建仁寺の開山の栄西禅師は比叡山で御修行されていたので深いご縁があります。
比叡山には栄西禅師が御修行されていた記念の碑が建てられています。
毎年建仁寺では、開山忌をお務めする前に、一山あげて比叡山に登ってその遺跡の清掃と諷経を務めていました。
この時に初めて比叡山に登りました。
そして開創千二百年を記念して建仁寺の僧が皆で比叡山の根本中堂で法要をお務めしたのでした。
この時に初めて根本中堂にお参りしました。
当時の山田恵諦座主もお元気で、建仁寺の法要にも参列してくださっていたのを覚えています。
山田恵諦座主は当時の仏教界を代表する高僧でしたので、そのお姿を拝見できただけでも感動したものです。
あれから三十八年の歳月が過ぎたのでした。
比叡山は標高八百四十八メートルの山であります。
多少は涼しいかと思って参りましたが駐車場など日の当たるところはかなりの高温でした。
しかし少し木陰に入るとなんとも爽やかな風が吹いていて聖地であることを感じました。
当日いただいたパンフレットには開催の趣旨が書かれていました。
一部を紹介します。
「諸宗教の対話と協力に力を注がれたローマ教皇ヨハネ·パウロII世聖下の提唱により、1986年10月に世界の諸宗教指導者がイタリアの聖地アッシジに集い、それぞれの宗教儀礼で、世界平和を希求する祈りを捧げました。
この集いに参加した第253世天台座主山田惠諦猊下は、「アッシジの精神」を引き継ぎ、日本においても世界平和祈りの集いを執り行うことを世界の宗教者に提言いたしました。
日本のさまざまな宗教者もそれぞれの立場で世界平和のための運動を展開しており、宗派を超えたご賛同をいただき、日本宗教代表者会議が主催者となり、1987年8月3日、4日の両日、比叡山山上にて「比叡山宗教サミット『世界宗教者平和の祈りの集い』」が開催され、世界の諸宗教代表者と共に世界の平和を祈ることができました。以来、毎年「平和の祈り」は続けられ、本年は38周年を迎えます。」
ということなのです。
私がこの祈りの集いに初めて参加したのが、もう十一年前のことになります。
それ以来毎年ではありませんがお参りさせてもらっています。
開催趣旨には、
「1987年に発した「比叡山メッセージ」では平和とは、単に戦争がないということではなく、人間どうしの睦み合う融和の状態、人類共同体をいうと明示しています。平和への第一歩は対話です。互いの違いを認め合い、敬意を持って理解し、調和をはかることです。」
とも書かれています。
仏教のみならず、神道もキリスト教もイスラム教の方もそれぞれ各界を代表する方々が集うのですから尊いことだと思います。
今年は、昨年ノーベル平和賞を受賞された日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表委員である田中照巳様が「核兵器も戦争もない人間社会を」と題して講演をしてくださいました。
そのご講演を拝聴させてもらいました。
田中様は、十三歳の時に長崎で被爆されているのです。
ですから九十三歳となられます。
足取りもしっかりされていて、お話も明快でありました。
その時の体験のお話は胸打つものでありました。
お身内の方五人を亡くされていらっしゃいます。
そんな原爆の悲惨な様子を話されながら、今日でも世界では一万二千発の核弾頭が地球上に存在し、四千発が即座に発射可能に配備されているというのです。
こういう数字を聞かされるとゾッとします。
被団協は1956年に結成されていますので、七十年近くになります。
その間核兵器は使ってはならないと世界に呼びかけてきています。
それが昨年のノーベル平和賞受賞に評価されたのでした。
原爆被害者の平均年齢も八十六歳と高齢になってきています。
田中様は若い人たちにも語り継ぐ運動を続けていらっしゃいます。
核兵器は作ってもいけない、持ってもいけない、使ってもいけないのだと強く訴えておられました。
この講演までは、延暦寺会館で行われ、そのあと会場を屋外に移して平和の祈りが開催されました。
三時三十分の平和の鐘が鳴らされて平和の祈りが捧げられます。
壇上には天台座主をはじめ神道、キリスト教、イスラム教などの各宗教の代表者が登られます。
天台座主のご挨拶があり、世界仏教徒連盟の会長のメッセージとローマ教皇諸宗教対話省の長官のメッセージがそれぞれ読まれました。
そのあと延暦寺会館で夕食をいただきました。
十一年前に初めてこの会に出て私は堀澤祖門様にお目にかかったのでした。
今年も控え室にいると、颯爽とお入りになって見えました。
今年もう九十六歳になられますが、足取りに衰えは見えません。
すぐにご挨拶させてもらいました。
お一人でいらっしゃるので、今日はお供の方はいらっしゃらないのですかと尋ねると、いやあ一人の方が気楽で笑顔で仰いました。
有り難いことにレセプションの席ではお隣に座らせてもらいました。
そこでいろいろお話させてもらいました。
こういう会に出ると各界を代表する方々にご縁ができるので有り難いことであります。
横田南嶺