ご質問に答える
「体をほぐして坐禅に入っても、いつのまにか肩に力が入ってしまい、気がついたら巻き肩になってしまうので、普段から肩に力が入らないようにするにはどうしたらいいのか」という質問がありました。
これはなかなか難しい問題であります。
この方はご自身で巻き肩だとお認めになっているのでしょう。
肩を開いた方が呼吸がしやすくなりますので、なるだけすぼんだ肩を開くように体操をします。
しかし、あまりやり過ぎはよくありませんし、その人その人にあった肩というのもあろうかと思います。
長年の姿勢は、そう簡単には変わるものではないのです。
理想の肩の状態を自分で思い浮かべて、無理に近づけようとすると、余計な力が入ります。
なるだけ肩を開いた方がいいし、肩を動かしておくことは血流もよくなるので、いい運動だと思っておいて、あとは自分で落ち着く肩の位置で呼吸するのが一番だと思っています。
自分で落ち着く位置は、自分が一番よくわかるのです。
以前に自分自身が一番の教科書ですと申し上げたことがありました。
ですからあまり理想に近づけようとか、理想に近い状態を維持しようと力むのではなく、体操は体をほぐすことだと思っておいて、あとは自分で落ち着く位置でお坐りになるのがいいと思います。
普段から肩に力がはいらないようにどうしたらいいかと、あまり考えていると、肩に力が入るものです。
日常の中ではいろんな仕事や作業をして、そしてその合間合間に、肩を回したら伸ばしたり動かすのがよいと思います。
一日の終わりなどには、少し時間をかけて、タオルなどを使って肩周りを無理のない程度に動かしてあげるのがよろしいかと思っています。
熱心な方は頑張りすぎる傾向がありますので、それこそ肩の力を抜いて楽に取り組んでいただけたらと思います。
「イスに坐るときに太ももはどこまでイス面につけますか」という質問もありました。
基本的には、浅くした方がよいと言われることが多いと感じます。
背もたれに寄り掛からないようにということかと察します。
私は太ももの付け根が足の裏だと思って、イス面に足の裏をしっかりつけるようにしています。
ちょうど座骨が足の踵だと想定して、ふとももの裏が足の裏になっていると思うのです。
そこで足踏みをするのもいいものです。
佐々木奘堂さんは、腿の付け根で立つことを坐るというと教えてくださっています。
ただやはりイスの高さや構造、その人の体格などによって、少し深めにした方が落ち着くことがあります。
リクライニングなども基本は休む時以外は使わないようにしていますが、しかしお尻を深く腰掛けて、仙骨を背もたれの一番下のところに当てて坐ると安定することがあります。
イスはいろいろありますので、自分で落ち着くところを見つけるのが一番なのであります。
ただ基本は足の付け根をしっかりとつけておくことです。
そこから立ち上がるのです。
それから「交通機関などで移動中にイス坐禅をしようとしても姿勢を維持するために腹筋背筋を締め付けなければならず、イス坐禅を継続することが難しい、続けるコツは」という質問がありました。
これは移動中こそイス坐禅に最適なのであります。
まずはそんなに腹筋背筋に力を入れることはないのであります。
もっとも坐った姿勢を維持しているのですから、多少筋肉は使っていますが、力むことはいりません。
先日も頭蓋骨と仙骨とでノビが出ているという話をしました。
仙骨を立てておいて、頭蓋骨をよい位置に置いておけば、あとは背骨はぶら下がっているだけなのです。
ぶら下がっているだけなので、余計な力はいりません。
それに仙骨も立てたら、そのまま立っています。
骨盤は立つようになっていますので、立てたらあとは置いておくだけなのです。
それから頭の位置も前にならないようにして、いいところに置いておくのです。
そして頭から背骨がぶら下がっているだけです。
余計な力みはむしろ脱けてゆくのです。
こんな楽な坐り方はありません。
これもやはりイス坐禅に参加しようとされる方はとても熱心な方が多いようで、頑張らなければという気持ちが強いのではないかと察します。
丹田についても質問がありました。
これも難しいものです。
私なども丹田に力を入れて坐れと教わってひたすら力を入れてきたつもりでしたが、腹筋や背筋に余計な力を入れていただけだったと気がつくようになりました。
言葉で伝えようとすると難しいものです。
腰骨がよい位置に立ってくれると自ずと下腹には充実感が生まれます。
そんな安定した下腹部に身を任せておくのがよろしいかと思います。
丹田には力を入れようとするよりも体全体を調えておけば、自ずと丹田に気が満ちるようになるのであります。
もっとも丹田がどこなのかということは意識しておくことは大事です。
時におへその下をさすったり、トントン叩いてみたりもします。
日常でもふとした時に下腹に手を当ててみるのも宜しいかと思います。
最後に取り上げたのは車の中での坐り方でした。
自動車のイスは楽に坐れるように見えて難しいものです。
お尻の方が下がるようになっていますので、腰を立てるのが難しいと感じます。
それでもなんとか体をおこそうとしても、シートベルトを着用しますので、これも難しいのです。
これはいろいろ工夫するしかありません。
ご自分の車であれば、腰のあたりにクッションを入れておけば腰を立てることはできます。
人さまの車などではそうもいきません。
そんな時でも座骨を意識して座骨をイス面に立てること、時に足を踏みしめて腰を立てようとすること、そのいろんな動きのなかで調整されてきます。
あきらめないことです。
シートベルトも抵抗感がありますのでその抵抗感を利用して腰を立てようとすることは可能です。
車のイスは万が一の事故の時に、体が前方に飛ばないようにイスに深く体が沈むようにしているのだと聞いたことがあります。
その好意は有り難く受け入れながら、どうした腰を立てることができるかと能動的になることが主体性を保つことであり、腰を立てる営みになります。
あれこれとお答えしているうちにあっという間に時間となってしまいました。
皆様の熱心なご質問に答えると自分もまた考えが整理されて理解が深まるものです。
それでもまだ答えきれなかった質問もありましたので、次回のイス坐禅でと思っています。
横田南嶺