2019年5月24日

ととのえられた心はたのしみをもたらす

 六波羅蜜の五番目には、禅定が説かれています。そして最後は智慧であります。

禅定と智慧こそは、仏教の根幹でもあります。

 禅定とは、心を静かに調えることです。

『法句経』にも、「こころはたもちがたく かるくたちさわぎ 意のままに従いゆくなり 

このこころをととのうるは善し かくととのえられし心は たのしみをぞもたらす(法句経三五)」と説かれています。

 心を調える為に、まずは姿勢を調えます。

腰骨を立て背筋をまっすぐに伸ばします。これが一番安楽な姿勢であります。

それから次には呼吸を調えます。

呼吸法には古来様々な教えが説かれています。

それぞれに意味があり、効用もあるものです。

最近4-7-8呼吸という方法を学びました。

これはハーバード大学の医学部を卒業されたアメリカの大学教授でもあるアンドルー・ワイル博士が説かれたものです。

頭のなかで1から4まで数えながら息を吸います。

次に1から7まで数える間、息を止めます。

その息を止めているときに、吸い込んだ酸素が体全身に行きわたるように思います。

そして1から8まで数えながらゆっくり吐いてゆくというものです。

 これを教わった時に、日本の藤田霊齋の説かれた呼吸法と似ていると思いました。

藤田霊齋の説かれた呼吸法の中に、太陽息というものがあります。

これは、息を吸う時に太陽の光が体内に入りこんで来るように意識します。

次に息を止めて、太陽の光が全身にゆきわたり、更に丹田に凝集するように思います。

そして息を吐くときには、全身が空中に広がっていって、太陽の光と溶け合ってひとつになると思うのです。

 きれいな空気を吸い込んで、息を止めて体に充満し、

吐きながら大気の中に溶け込んでゆくように思って行うところは

共通していると思いました。478という秒数にこだわるのではなく、自分の出来る範囲で、リズムよくやるとよろしいかと思います。

 それから、最近学びましたのは、『スタンフォード式疲れない体』という本に説かれているIAP呼吸です。

腹圧呼吸とも言います。

これは息を吸いながら、横隔膜を下げてゆきます。胸一杯にすって下腹もふくらませます。

一般に説かれる腹式呼吸ですと、息を吐きながらお腹をへこめますが、腹圧呼吸ではふくらんだ状態を保ったまま息を吐いてゆきます。

こちらの呼吸は、岡田虎二郎先生の説かれた呼吸法に似ていると思いました。

岡田先生の説かれた岡田式静坐法の呼吸では、

みぞおちの力を抜いて(上腹部をゆるめて)、息をそろそろ出しながら丹田(臍から下の部分)に力を入れます。

息は、鼻息が自分にさえも聞こえないように静かに細く長く出してゆきます。

下腹部を前へ突き出すような気持ちで、立てた腰のあたりからズーッと前へ押し出すような気持ちで、

丹田に力を充実させて息を吐くのです。

そして、吸う息は、息を吐きながら入れていた下腹部の力をちょっとゆるめる(力を入れるのを休止する)のです。

すると上腹部のみぞおちがスーッとふくらんで、息は肺底まで、瞬時にはいってくると説きます。

息が入れば、すぐみぞおちを落として、静かに出しながら丹田に力を入れていくのです。

 下腹部をふくらましたまま、腹圧をかけて息を吐くという点では、

スタンフォード式に説かれている腹圧呼吸と共通しています。

このように、私たちは学んできた呼吸が、

最近のアメリカなどで効能があると説かれている呼吸とよく似ていることを興味深く思います。

 栄西禅師は、『興禅護国論』の中で、心は猿のように暴れ回るものであり、

その猿にヒモをつけて、しっかりと柱に繋いでおくのだと説かれています。

柱とは、背骨をまっすぐにした体幹です。

心をつなぎ止めるヒモとは呼吸です。

腰をしっかり立てて体幹を意識し、散乱しようとする心を呼吸でつなぎ止めておく、

そんなことが禅定の基礎になります。

そうしてよく心がととのえられたなら、楽しみがもたらされるのであり、正しい智慧も湧いてくるのです。

{ 横田南嶺老師 僧堂提唱より}

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